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三成がお葉に初めて会ったのはおそらく10歳前後の頃。
石田家の縁戚の娘で、父に連れられ行った先で会った。
花を見て、手折っていたのを覚えている。
挨拶も何もなしに、手折った花を三成に向け、

「この花の名前知っている?」

と三成に言ってきた。
知らないと言うと、私は知っているわよ、とふふんと自慢気に頬を揺らすのが腹立った。
婚約も親が勝手に決めたこと。三成の意思ではない。
三成より二歳年上で、子供の頃は女の方が発育が早いために、男としても華奢な三成に、必要以上に年上ぶって接してくるのが嫌だった。
三成が秀吉に仕え始めてしばらくして、長雨が続いたことがあった。
結果、堤防が決壊し、三成たちはその補修作業にかかることになった。
その時に久しぶりに会った。
世話をしていた花が流されたと泣いていた。
花なんかまた咲かせばいいと言うと、お葉は怒った。
面倒臭いと思ったものだ。女とは面倒だ。
それでも、翌年土壌が流され溜まったと思われた場所にお葉の世話をしていた花――虞美人草が咲いているのを見つけ、連れて行ったやった。
それから、やたらに長浜城にたわいもない用を作ると会いに来た。
清正や正則が、にやにやとからかうように見るのが嫌だったし、顔を合わせても喧嘩になるだけ。
すぐに帰していたが、秀吉の目にとまってしまった。

お葉は綺麗な娘だった。

秀吉を拒否できなかったのは、三成のことを考えてのことだったのかもしれない。
それを知った時、三成に落胆というものはなかった。
綺麗なものがあったから手に入れたくなった――秀吉の心境はそんなところだろうと思った。お葉は、美しいが身分もないし、とりたてて教養があるわけでもない田舎娘。すぐに飽きるだろうと思った。
三成の予想は当たったが、運が良かったのか悪かったのか。
お葉は身ごもっていた。
妊娠が分かってからのお葉は、つわりもひどく精神的に不安定だった。
そんな母体の影響を受けたかのごとく、産まれてきた子供はとても身体が弱く夭折した。

お葉と、一度は子が出来たのなら再度出来る可能性があるのではないでしょうか?

秀吉にそう言ったのは三成。
その言葉でお葉を追い詰めたのも三成。















「婚約者が入水自殺?」

驚いたのは一瞬、誾千代はしばらく無言の視線を活けてある虞美人草へと注ぐ。
それから、だからか・・・と呟きを落とす。
その呟きの意味を問いかけてくるような宗茂の視線に、

「私が――」

虞美人の立場なら死を選ぶか、と問われたと誾千代は答える。

「お前はどう答えた?」
「虞美人のようには死なぬ。立花の誇りの為に戦う」
「お前らしいな」

くくくっと宗茂は頬を揺らすが、すぐに真顔になると、じっと誾千代を見つめてくる。その視線から逃れるように誾千代はくるりと身をよじる。
苦手なのだ。この宗茂の視線が――。
時折、宗茂は真っ直ぐに誾千代に見てくる。
その視線が甘いのだ。甘く、抱きしめるように、からみついてくるように。
それが誾千代は苦手だった。
知っている。宗茂の気持ちを誾千代は知っている。
その視線の甘さに、誾千代はまずは心をふるわせるが受け入れることが出来ない。
すると、宗茂は何もなかったかのようにその表情を静める。
まるであれはまぼろしだったかのように。
それを知っているから時間を置き、今再び振り返ってみれば。

「何をしている?!」

宗茂が虞美人草の花を散らしていた。
駆け寄ってその手を掴んだつもりが、逆に掴まれた。
あっ、と思った時にはその胸の中に抱き絡められる。それでも抗えば宗茂の力が強まるだけだと分かっているが、素直に受け止めることが出来ない。
けれど、今日はすぐに解放された。

「宗茂?」

あっけなく離れていく体温に、誾千代は逆に不安になる。

「もしかしたら」

お前には石田殿のような男の方が合っているかも知れないな。

「はっ?!」

間抜けな声で驚く誾千代に、宗茂は瞳にかすかに微笑を揺らして、

「ふたりは似ている」
「宗茂?」

誾千代の頬に戸惑いが走るのも宗茂は気にせず、

「ただのひとりごとだ」

そんなことを言う。




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