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嫌い、だと思う。
この手が嫌いだ。

誾千代は、身体の下から湧き出てくる狂おしい感覚に、下唇を噛みしめながら堪える。
けれど、そんな誾千代を楽しむかのようにその手が誾千代の体に触れる。
全身の血が逆流でもしたかのように騒ぎ、体が熱くなり、心が落ち着かなくなる。

誾千代、と耳元で名を囁かれ、堪えていた声が洩れる。


あぁ、嫌いだ。本当に嫌いだ。
自分の体に触れてくるこの手が、嫌いだ。

右手は、誾千代の素肌を縦横無尽に這い回り、弄ぶ。
なのに、左手は誾千代をなだめるかのように紳士的に、頬や唇、髪に触れてくる。
右手は獣のように、左手は紳士的に誾千代に触れる。
本当に同じ男の手なのだろうか。


この手に触れられていると不安になる。
自分が守ってきた立花の誇り。それらが削ぐ落とされていくように思える。
そして、残るのは女の自分。
強固に固め築いたものを取り払われていくかのようで不安になる。

不安を取り払いたくて、そして、不確実な感覚に耐えらなくなり、
その手を掴むと、その男がにやりと頬を揺らす。


あぁ、嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。

なのに――。


この手がないと生きていけない。

その矛盾した想いに誾千代は、掴んだ手の指を絡み合わせて、力をこめる。

 

 

嫌いだけど、離さないで欲しい。

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