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仲がいいのか悪いのか。

加藤清正と話すたびに、宗茂はそう思った。
三成の愚痴に近いことを零すくせに、他人がちょっとでも三成を悪く言っていたと聞けば怒る。不思議な関係だと思ったが、すぐにそれは自分と誾千代の関係に近いのではないかと思い直す。人の振り見て我が振り直せ、ということか。

自らの陣所に戻れば誾千代の姿はない。
また供もつれずにふらりと遠乗りに出たのか。
探しに行こうと思ったところに、誾千代が戻ってきた。片手に花の束を持って。

「それは?」
「虞美人草だそうだ」

ぽいっと宗茂に投げかけてくる。反射的に宗茂はそれを受け取る。

「お前が花とは珍しいな」
「綺麗なものは綺麗だと素直に認めればいい。男も女も関係はない」

えっ、と言う宗茂に誾千代は、そう言われたと自嘲のような笑みを浮かべて答える。

「誰にだ?」
「石田三成。あの山で偶然会った」

そう言われて素直に花を摘んで持って帰ってきたというのか、宗茂は腹の奥から沸々と面白くないと思う感情が生まれる。
自分が何を言ったところで反発してくる誾千代が――。

「繁殖力が強いらしいから、外に適当に放り投げておいてもいいらしい」
「石田殿がそう言っていたのか?」
「あの男は、本当によくいろいろなことを知っているな」

宗茂は答えず、虞美人草と誾千代を交互に見た後。

「お前は――、石田殿の言うことは素直に聞くようだな」

誾千代は、宗茂が言葉に浮かんだ嫌味に気付かない振りをする。








女のような――。
宗茂は、三成の顔を見てつくづく思う。
すべてが小作りで整った三成の顔は、女と見まがうほどの瑞々しい美しさをたたえている。特に、華やかな憂いを持った目元のあたりなど、男とも女とも言い切れない美しさが匂いたつようで――人を惹きつける。
説明する声もよく通り、内容は簡潔にまとまっている。
築城にあたり立花の兵も出すことになった。
北条に気付かれることなく表面だけでも素早く築くのには手勢が必要だ。
清正とともに三成の説明を聞きながら思う。
これで横柄な態度でなければ人から相当好意を持たれたのではないか。
そう思ってから、いや違うとも思った。
三成が横柄な態度になったのは自らの保身からではないだろうか、と。
女のようだときっと言われ続け、だから、精一杯虚勢を張り続けていくうちに今の性格が構成されたのではないか。
だとすれば、誾千代も同じこと。
立花家の跡取りとして育てられ、女だから侮られないように精一杯強がって生きてきた。

――石田殿と誾千代は似たもの同士ということか。

宗茂の中に、かなり不快な苛立ちが一瞬揺れて消えた。
話し合いが終わり、解散となった時。

「妻が世話になったようで」

にこりとしてそう言えば、三成は軽く頷くだけ。

「石田殿は、花のことも詳しい様子で妻が関心してました」

宗茂の言葉に、反応を示したのは清正だった。
三成は特別何もなかったかのように立ち去っていく。家臣の島左近と連れ立って歩く姿は、まるで男と女だ。
足音が聞こえなくなってから、

「何かおかしいことを言ったか?」

清正に問えば、いや何でもないと空笑って誤魔化そうとする。
それを再度問いただせば。


「――あいつの婚約者だった女が、花に詳しかったんだよ」
「だった?」
「死んだんだ。琵琶湖で入水自殺をした」
「なぜ?」
「――なぜって、事情は複雑で俺も詳しいことは知らない」


清正は、髪をごしごしをかき回すと、溜息を落とす。

「あいつの婚約者だったけど、その・・・いつの間にか・・・手がついて側室になってて」

誰の、と問わずにも宗茂には秀吉だと分かった。

「石田殿が差し出され、それを苦に自殺したとか?」
「いや、それはない」

数瞬の間もなく清正は、あいつはそういう男ではない、ときっぱり否定する。

「本当に詳しいことはあいつしか知らないんじゃないか。俺も詳しくは知らない」

ただ、花が好きな女だった、と清正は続けた。
長雨で堤防が決壊した時、世話をしていた花が流されたのをひどく嘆いていたのを覚えている、と。清正は、その時に初めて会ったのだという。
思い出すように目を細めた後、

「そういえば似ているな」
「何が?」
「お前と妻の関係と、三成とお葉の関係が」

顔を合わせば喧嘩ばかりしていた、と言う。





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