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2024/11
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寒くなると、信幸は布団を体に巻きつける癖がある。
首周りをしっかりと埋め込み、長細い体を胎児のように丸めて漸く安心するのだ。
寒いのは苦手だ、と信幸は溜息する。
外に出ている頬が冷たい。中へ潜り込もうかとも思うが、それも何だか息苦しい。
隣の布団は稲がいるはずなのに今は空だ。
それが、余計に信幸に寒々しさを与える。

(稲は一体何をしていいるのだろう?)

妻の寝顔が見えると、体の中がじんわり温まる気がするのに。
信幸は暖かい自分の領土から、そうっと手を伸ばした。ひやりと揺れる外気。
誰もいない隣の空間へと指を彷徨わせる。

(いつもはここに頭があって・・・)

するりと空を辿る。目・鼻・唇、膨らむ掛け布団。
稲を描くと、まるで彼女が今そこに居るような気にり、ほんの少し安心する。
安心して、おかしな話だと苦笑もする。どうして妻がいないと、落ち着けないのだろう。
そんなことを考えながら、腕を稲の布団に預け、信幸は眠りについた。


稲が障子を開けると、そこには暗闇が広がっていた。
用事を片付けているうちについ時間を過ごしてしまった。
そろ、と室内へ入る。
早く寝なきゃ、と足を進めた時、自分の布団に手が置かれているのがぼんやりと見えた。

(・・・信幸さま・・・?)

彼は丸くなって眠っている。冬になるとよく見かける光景だ。

(今日は寒いですからね)

それにしてもこの手はどうしたんだろう。
小さくなっている体なんて知りません、と言わんばかりに、無頓着に真っ直ぐ突き出した腕。訝しく思いながら、稲は取り敢えず布団へと潜り込んだ。
横を向くと、目の前には相変わらず大きな手。
恐る恐る触れてみると、その持ち主は唸り声を上げた。そのまま手首を囚われる。
そして、その冷たさに思わず驚く。
慌てて彼の布団へ戻そうとしたが、何故か指は離れない。
信幸の触れる場所から体温を吸い取られそうな気がして、稲はぶるっと震えた。
迷った結果、稲はその腕ごと自分の布団に手を入れた。
じんわりと暖かい。
心持ち彼の方へ身を寄せ、掛け布団を信幸のそれへと重ねた。
これなら信幸さまも寒くないはず。

手首は握り締められたままだ。
その手首から夫の体温を感じつつ、ふっと頬が自然と揺れる。

夫は起きない。
ゆっくりと夫の寝顔を観察するように見ながら、それに、心が安らぐのを感じながら、稲もまた、眠りに落ちた。



あれ、と信幸は薄く目を開けた。
ぼんやりとする頭で、妙に近くにいる稲の顔を認識する。
いつの間に、と思いながら、妻の寝顔を見つめる。

外はまだ暗い。
自分の片腕がとても暖かいことに気付いた。掌に細く柔らかい感触。

もぞ、と、もう片方の腕も隣の布団へ差し入れた。
自分よりも高く感じる、妻の温もり。
信幸は稲の体を引き寄せた。
すると今度は背中が不平を上げている。眉を顰めるので、彼女の腕に手を廻した。

温かい。

もっとその温もりを近づけようと、信幸は彼女を抱きしめる。やっと満足できた。


・・・やはり、実物がいいな。
 

すうすうという稲の寝息に引き込まれ、再び信幸は深い眠りに就く。
これから本格的な冬を迎えるだろう。

でもここは、とてもあたたかい場所。

 

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