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信幸の前髪がだいぶ伸びている。
「兄上、前髪邪魔じゃないですか?切りましょうか?」
幸村はそう言いながら、兄の前髪にそっと手を触れる。
「ああ、頼む」
「目、閉じててくださいね」
幸村は、小さな剃刀を信幸の前髪に当てる。二人の顔の距離はほんのわずか。
稲は、障子戸に映った影に思わず足を止める。
その部屋には、夫である信幸と、義弟である幸村がいることを知っている。
障子戸に映る影は、ぴったりと寄り添っていて――。
「幸村、鼻息がくすぐったい」
「突然目を開かないで下さい」
稲は、二人の会話を聞いて、青くなる。
(何をしているの!?)
思わず何も言わずに稲が障子戸を開けば、
「わぁ!!!失敗した」
驚いた幸村が声を上げる。
「失敗?」
「義姉上が急に入ってくるから」
「えっ・・・?」
幸村が恨みがましく稲を見て、信幸は自分の前髪に触れている。
稲は、切り落とされた信幸の前髪を見て、
「あぁ、前髪を切っていたのですが」
安心したように言う。
「何をしていると思ったのですか?」
幸村が問えば、
「いえ、あの、兄弟でそういう関係なのかと・・・」
「「――・・・そういう?」」
あぁ、良かった、と嬉しそうに言う稲に、短く切り落とされた前髪に触れながら信幸は、
「全然良くないのですが・・・」
ぽつり呟く。
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