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誾千代は、宗茂の手を思い切り払いのける。
払いのけられた宗茂は、そうなることは想定内のことだったのか、にやりと誾千代を見る。それに誾千代が眉を、むっと歪ませると、
「たまには笑ってみろよ」
と言う。
「何もおかしいことがないのに笑えるわけがないだろう」
「おかしいことがあっても、お前は笑わないではないか。さっきだって」
誾千代は、宗茂の言葉を鼻先でふんっと払いのける。
だけど宗茂は、無言で誾千代に視線を注ぎ続けた。不機嫌そうに歪まれた眉に、自分の視線が疎ましいのだとばかりに震える睫毛。
先ほど立花家の重臣たちが集まり、定期評定があり、その場で家臣のひとりの言葉で笑いが起きた。皆が笑う中、誾千代は軽く頬を揺らしただけ。目は笑っていたが、声を出して笑ったり、楽しげに頬を揺らすことはなかった。それは普段からそうだ。
宗茂は、急に子供の頃はもっと素直に笑う奴だったのに、と思い出す。
楽しげに声を上げ、頬を揺らして――宗茂の脳裏に少女の頃の誾千代の笑顔が思い返される。
「昔のお前、可愛かったのにな」
「はっ?」
「素直に笑っていた頃のお前は可愛かったのになーって言っただけだ」
たっぷりと粘りを含んだような声になった宗茂を、誾千代をキッと睨む。睨まれて、誾千代を見る宗茂の目に、からかいの色が滲んだ。ここで食ってかかってしまえば宗茂の思う壺だと思った誾千代は、ゆっくりと瞬きをひとつ叩くと、相手をするのも無駄だとばかりに宗茂を無視することを決め込む。
それにクククッと喉を揺らして宗茂が笑うが、無視する。
ふつふつと腹の底から苛立ちが湧き上がるが、必死に押さえ込みながら、
(お前が――)
お前がそういうことを言うから、私は笑えなくなったのだ。子供の頃、宗茂が何気なく、
「誾千代は笑うと女の子だな。可愛い」
と言った。立花の跡取りとして男として育てられ、自身もそのつもりだった誾千代にとって、それは堪らなく屈辱であって、だけど――。
にやにやと見てくる宗茂の目を、誾千代は伏せ目がちに受け止めたが、すぐにまたふんっと反らしてみせる。
(だけど――、堪らなく嬉しかった)
そんな風に思ってしまった自分が許せなかった。宗茂に可愛いと言われて嬉しいと思ってしまう自分が、たまらなく嫌だった。
宗茂の視線を、まだ感じる。
その視線で、この気持ちを見透かされているようで悔しくて、下唇を噛み締めた時。
「笑ってみろよ」
宗茂が誾千代の顔に手を伸ばして、口角をあげようとしてくる。やめろ、と払いのけるが、宗茂は気にせずまた手を伸ばしてくる。また払い除けて――幾度も繰り返しながら、
(そういうことをするから、ますます笑えなくなる)
と誾千代は思いつつ、しかし、それさえも宗茂に見透かされているようで。
胸の中で、熱いかたまりがぐるぐると回る。
払いのけられた宗茂は、そうなることは想定内のことだったのか、にやりと誾千代を見る。それに誾千代が眉を、むっと歪ませると、
「たまには笑ってみろよ」
と言う。
「何もおかしいことがないのに笑えるわけがないだろう」
「おかしいことがあっても、お前は笑わないではないか。さっきだって」
誾千代は、宗茂の言葉を鼻先でふんっと払いのける。
だけど宗茂は、無言で誾千代に視線を注ぎ続けた。不機嫌そうに歪まれた眉に、自分の視線が疎ましいのだとばかりに震える睫毛。
先ほど立花家の重臣たちが集まり、定期評定があり、その場で家臣のひとりの言葉で笑いが起きた。皆が笑う中、誾千代は軽く頬を揺らしただけ。目は笑っていたが、声を出して笑ったり、楽しげに頬を揺らすことはなかった。それは普段からそうだ。
宗茂は、急に子供の頃はもっと素直に笑う奴だったのに、と思い出す。
楽しげに声を上げ、頬を揺らして――宗茂の脳裏に少女の頃の誾千代の笑顔が思い返される。
「昔のお前、可愛かったのにな」
「はっ?」
「素直に笑っていた頃のお前は可愛かったのになーって言っただけだ」
たっぷりと粘りを含んだような声になった宗茂を、誾千代をキッと睨む。睨まれて、誾千代を見る宗茂の目に、からかいの色が滲んだ。ここで食ってかかってしまえば宗茂の思う壺だと思った誾千代は、ゆっくりと瞬きをひとつ叩くと、相手をするのも無駄だとばかりに宗茂を無視することを決め込む。
それにクククッと喉を揺らして宗茂が笑うが、無視する。
ふつふつと腹の底から苛立ちが湧き上がるが、必死に押さえ込みながら、
(お前が――)
お前がそういうことを言うから、私は笑えなくなったのだ。子供の頃、宗茂が何気なく、
「誾千代は笑うと女の子だな。可愛い」
と言った。立花の跡取りとして男として育てられ、自身もそのつもりだった誾千代にとって、それは堪らなく屈辱であって、だけど――。
にやにやと見てくる宗茂の目を、誾千代は伏せ目がちに受け止めたが、すぐにまたふんっと反らしてみせる。
(だけど――、堪らなく嬉しかった)
そんな風に思ってしまった自分が許せなかった。宗茂に可愛いと言われて嬉しいと思ってしまう自分が、たまらなく嫌だった。
宗茂の視線を、まだ感じる。
その視線で、この気持ちを見透かされているようで悔しくて、下唇を噛み締めた時。
「笑ってみろよ」
宗茂が誾千代の顔に手を伸ばして、口角をあげようとしてくる。やめろ、と払いのけるが、宗茂は気にせずまた手を伸ばしてくる。また払い除けて――幾度も繰り返しながら、
(そういうことをするから、ますます笑えなくなる)
と誾千代は思いつつ、しかし、それさえも宗茂に見透かされているようで。
胸の中で、熱いかたまりがぐるぐると回る。
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