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情緒のない奴だな、と宗茂が笑う。
誾千代は、夫を一瞥だけすると、気だるそうに溜息を落とし、宗茂によって剥がされた寝着に手を伸ばす。
身支度を整えながら、

「――甘えるような女が好みならば、そんな女を迎えればいいだろう」 

と言う。
夜を共にして、コトが終わればすぐに、腕から逃れるように、すり抜けてしまう自分を「情緒のない奴」だと
宗茂が言うので、つい意地っ張りの矢を射るが、宗茂に届いたのか、届いていないのか。
ただ唇に薄い笑みを浮かべているだけ。
誾千代の着替えが終わるのを待っていたかのように、宗茂は上半身を起こす。
  
「別に、甘える女が好みというわけではない」
「お前の好みなど、私には関係がない」
「そうか?」

じろり睨むのに、宗茂は楽しげに目を緩ませている。

「苦手なんだ」
「何が?」
「――お前に抱かれるのが」

しばしの沈黙。

「まだ慣れないとでもいうのか?」

夫婦となって数年過ぎているというのに、と宗茂がからかうように笑えば、

「そうではない。ただ、苦手なのだ。自分が・・・」

言いかけて、誾千代は唇を閉ざす。
――自分が自分でなくなるようで、苦手なのだ。
そんなこと言えやしない、と誾千代は、宗茂の視線を振り払うように髪をかき上げる。
宗茂に抱かれると、自分は「女」なのだと嫌でも感じさせられる。
その腕の、胸の中にいると泣きたくなる。
普段蓋をしている「自分の中の女」を宗茂は、開けようとする。
開けられるのが怖い。見られるのが怖い。なのに、見て欲しい。知って欲しい。
宗茂にだけは見られたくない。
宗茂にだけは知っていて欲しい。
そんな矛盾した胸の内の葛藤から逃れる方法は、宗茂の腕から逃れること。
黙ってしまった宗茂の反応が、ちらり気になり、そっと見てみれば、手が伸ばされた。
一瞬怯むように身を翻したが、宗茂は気にせずに、誾千代の髪に触れてきた。
頭蓋骨の形を確認するように、強く撫でた後、

「お前は、女である前に立花だからな」

と言って手を離す。えっ、と誾千代が目を揺らせば、宗茂は何も言っていないように、そのまま、床へと戻る。
  
(宗茂は――)

誾千代は、ぎゅっと強く手を握る。

(宗茂は、分かっているのだな)

ゆっくりと長く瞬きをした後。
誾千代は、そっと宗茂の床へと身を滑り込ませると、驚く宗茂が向きを変えようとするのを、押さえつける。
すると、宗茂が声をあげて笑う。

「背中ならいいのか?」
「うるさい!黙っていろ!」

誾千代は、諌めるようにきつく強く背に抱きつく。

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