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2024/11
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まさか、ここで会うとは。
駿府城の廊下。
信之は、目があったその人に目礼をして、そのままかわすつもりだったが、相手はそれを許すつもりはなかったらしい。

「真田」

呼ばれて、信之は藤堂高虎を見る。目が合い数瞬、

「何か?」
「まさかお前も共に入っているのか?」

京都二条城で行われる秀頼との対面のことかと信之は思った。
高虎はその随伴をする予定の関係で、駿府に来ていたのだろう。

「いや、何も聞いていない」
「では、なぜここに」
「さぁ、知りませんよ。大御所様に呼ばれたので来たまでです」

さほどの付き合いは前からないが関ヶ原以降、高虎は何かと信之を敵視する。
昌幸と幸村の命乞いが通ったことに、何かしらのわだかまりがあることは推測できるが、それはおそらく。

「吉継殿のご養女も元気にしているようですのでご安心を」

矢を言葉に変えて射れば、高虎に刺さったらしい。あからさまに不愉快そうに眉を潜めて、睨んでくる。
幸村は吉継の姪を、吉継の養女にした上で娶っている。彼女は九度山にも随行している。
ひっそりと目立たない大人しい娘だ。
先日も九度山で挨拶をしたきり、ひっそりと親子兄弟の体面の邪魔になるとでも考えたのか顔を出さなかった。

「お前・・・」

高虎と吉継は浅井家に共に仕えていた時期があり、親しかった。
そして、秀吉死後の動乱の最中、吉継は家康に近しい考えを示していたのだが・・・。
結果として吉継は三成についた。
関ヶ原では、大谷軍対藤堂軍の戦いが繰り広げられたと聞いている。
吉継は自害し、三成は処刑となり、けれど幸村は生きている。
それが理性とは違うどこかでやるせなくて、憎らしいのだろうと信之は、考えていた。
「真田の血、ここで絶やさねば禍根となる」とまで言われた相手に信之とて、いい感情は持っていないが、それを受けとめずに、流せばいいと思っている。
だが、それが高虎には鼻につくのだろう。
しかし、高虎も感情のままに怒り、憎めばいいのに、人間の感情というものは、それほど単純ではないらしい。
積み上げられきた関係は、敵味方に別れても、割り切れない。それは信之と幸村も同じだ。

「大御所様をお待たせしてしまいますので、失礼いたします」

ふわり微笑んで見せて、信之は高虎の脇を通り過ぎる。



 ※


家康の茶室に呼ばれて、信之があからさまに嫌な顔をして見せるので家康は笑う。
茶室であるのに、不思議なにおいが漂う。炭で土瓶を煮ている。

「実験の為に呼んだだけではないでしょうね?」

と言えば、一層笑いを深めた家康が、器を差し出してくる。茶ではない。家康が趣味で煎じた薬湯だ。

「体調はどうだ?」
「それは私のですか?それとも」
「死んだと聞いたが」
「すごい情報網ですね」

駿府につく直前に、昌幸の訃報を信之は聞かされた。
悲しみなどより、生きているうちに会えただけでも幸福だったと思っていたが、既に家康が知っていたことに驚き、また内心ひやりともしていた。

「稲から聞いた。お前が上田をたってしまったので代理だと知らせてきた」
「あぁ・・・、稲ですか」

しばしの沈黙。

「ご用件を伺う前に大変失礼なのですが、父の葬儀を」
「葬儀は認めることができない。時期が悪い」
「・・・秀頼公との会見が近いから、かつての裏切り者を甘やかすことはできない、ということでしょうか」
「そうだな」
「では弟の赦免も時期が悪いでしょうか?」
「ああ。まるで対豊臣の為に、西軍についた将を取り込んだかのように思われ警戒される」

信之は、家康に出された薬湯を一口口に含む。苦い。

「苦いですね」
「では症状と合わないのかもしれないな。体が欲している成分だと苦く感じないという」
「良薬口に苦しではないのですか?」

無理矢理飲み干せば、家康が軽く笑う。

「会見はどうなると思う?」
「豊臣をどうされたいのですか?」

問いを問いで返せば、

「お前も表裏比興の者だな」
「・・・では私も主君替えをうまくやっていくべきですかね」
「はは。そうだな。そうしてくれるか?」
「え?」

信之は言葉を失い、家康を見れば、そこには老獪さを感じさせる瞳で信之を見据える家康がいた。

「今後の成り行き次第で、豊臣と内通して欲しい」
「・・・」
「身分等、領地は保障する」
「・・・」

言葉を失い、戸惑いを見せる信之を、楽し気に受け止める家康の双眸の奥が、ゆらり揺れる。


――家康が、父を弟を許さなかったのは、もしや・・・。





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昌幸の死の時期が史実と異なってます。

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