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2024/11
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そこは、と言いかけて止めた宗茂に、皆の視線が一斉に集まる。
その視線に宗茂は、一瞬だけ苦笑を洩らす。
秀吉の命で朝鮮に渡航し、諸将が集まって開かれた評定の最中、皆の視線を受けた宗茂は、さも何も言っていないように顔を取り繕ったが、

「そこは、何だよ?」

気になったらしい加藤清正に言われ、薄く笑う。

「誾千代に任せよう、と言おうとしていないことを思い出した」
「誾千代に?」

そんなことか、と清正は投げ捨てる。
そのまま、評定は続けられるが、それに耳を傾けながら、改めて誾千代がいないのだな、と思った。
誾千代は領地に残り、渡航したのは宗茂だけ。
いつも隣にいる存在がいない。
頭では分かっていたけれど、条件反射というべきか習慣というべきか、つい常に近くにいるような気でいた。
今だって評定に耳を傾けながら、誾千代ありきで考えている自分がいた。
私も行く、と言い、ふたりで領地を長く空けるわけにはいかないと説得し、最後は駄々をこねる子供のように拗ねて、睨んできた誾千代を置いてきたのは自分だというのに、と宗茂は胸の内で苦笑する。
しかし、と気持ちを切り替えて評定に耳を傾けるが、結論はなかなか出ない。
ここに誾千代がいたら苛立って何を言うだろうか。
いや、宗茂は評定に参加する諸将を見渡して、さすがの誾千代も堪えるだろうか。
いや、誾千代のことだから、と考え直して、ゆっくりと瞬きをしてから、苦笑。

「何が可笑しい?」

清正に言われ、宗茂は顔を引き締めたつもりだが、清正の眉は歪む。
なかなか結論の出ない評定。

「少し休みますか」

誰かが言い、賛成の声が上がる。
一斉にざわめき出した中、宗茂はすっ・・・と脇に視線を流す。
視界に移るのは、身じろぎをする男の姿。
いつもの見慣れた姿はない。
結婚し、いや、その前から考えてみても、こんなに離れている期間はなかったかもしれない。

「長いな・・・」

宗茂が呟けば、本当にと隣の男が苦笑しながら同意する。
評定のことを言っているのだろうと思っているが、本当に、と宗茂も笑う。

「本当に長い・・・」

再び呟いた途端、胸を何かが貫いた。疼くような痛み。
その痛みに宗茂は、ゆっくりと瞼を閉じる。
一瞬、恨めしく睨むような女の顔が見えた気がしたが、次の瞬間、周囲のざわめきが、その顔をさらってゆく。





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