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新婚初夜とは思えぬ気迫だな、と宗茂は新妻を見た。
白寝着に着替えて、廊からその部屋に入ると、同じく白寝着を身につけた誾千代が褥の端に座って、部屋に入ってきた宗茂を一瞥する。
けれど、全身から溢れて出ている気迫は、木刀を合わせる時と同じもの。
まぁ、それが誾千代らしい、とも宗茂は思う。
しばらく誾千代を見ていたが、それが疎ましいとばかりに新妻は睨み返してきた。
宗茂が褥に近づけば、躊躇うことなく誾千代は宗茂の手を借りずに身を横たえた。
その瞬間、触れたらピリッと雷でも落としそうだった気迫が消えた。
思わず宗茂は驚いた。
文句を言って抵抗されるだろうと想像していたが――。
(覚悟は出来ている、ということか?それとも・・・)
宗茂の傍らで仰向けになった誾千代は、宗茂と目を合わせることなく、視線を天井に張り付けたまま。
それは初夜を迎える女の風情ではない。
「誾千代」
声をかけるが、返事はない。仕方がない。
仕掛けるか・・・。
宗茂は、そこで誾千代の帯を解き、前を開く。誾千代はおとなしくされるがまま。
するとそこには灰明るい灯りの下に薄桃色の肌が見え、宗茂は体の奥から痺れが走り、欲情が怒涛のごとく押し寄せてくるのが分かったが、ふと誾千代を見れば、その視線は天井に張り付いたまま。宗茂を見ようとはしてこない。
一瞬にして引き潮のように、湧き上がっていた熱情が引いていく。
自分を裸体へと導こうとしていた宗茂の手が止まったことに誾千代は気付いた。
天井ばかり見ていた視線を宗茂へと向ければ、目が合った。
普段へらへらと軽口ばかりきく口元がきつく結ばれ、目が珍しく沈んでいる。
初夜に見せる男の顔ではないな、とふと心の中だけで笑う。
笑って嬉しくなる。
こんな顔が見てみたかったのだ。
宗茂が自分に気があることは気付いていた。
そして、それを内心嘲笑っていた。
――馬鹿な男だ。
自分は既に立花家の家督を継いだ身。宗茂は高橋家の跡取り。
いつかは自分とて婿を取る。それが誰であれ立花の次世代を得る為、仕方のないこと。そう覚悟していた。宗茂も、身分相応の娘を迎えるだろう。
ふたりの人生は平行線を辿り、交わることは決してないのだから、愛だ恋だそんな感情を持って何になる。
そう嘲笑って、けれど、どこか嬉しいような。
嬉しいと感じるのはきっと、宗茂に勝てたような気がしたから。ただそれだけ。
いや、自分も宗茂に好意がないわけではない。
けれど、それが愛だ恋だというものなのかは分からない。分からないままでいい。
子供の頃は、体格も武勇の腕も大差なかった。
剣を合わせれば、勝つことも負けることも同じぐらいあった。
なのに・・・。
思い出しても悔しさが沸き立つ。
自分が女としてのしるしを見て、宗茂の声が低くなった頃から、勝てなくなった。
これが男と女の差なのか、誾千代は愕然としたことを覚えている。
そして、嫉妬した。自分がどんなにもがき苦しんでも手に入れることが出来ないものを、生まれ持っていた宗茂に嫉妬した。
男として生まれただけで、宗茂は自分が手に入れられぬものを持っている。
世の中に多くの男がいるのに、宗茂にだけ嫉妬した。
どうしようもないくだらない嫉妬だと分かっているけれど、立花家の跡取りとなるべく男子のように育てられ、なのに、今度は女となり、宗茂の妻になれという。
手を止めた宗茂に、
「やらないのか?」
誾千代が問う。すると、宗茂の唇を苦笑が縁取る。
「初夜の新妻の物言いではな――」
言いかけて宗茂は、苦笑を笑いへと変える。
「お前は空気を読まない主義――だったな」
「それはお互いさまではないか?」
やらないのなら、中途半端に脱がされた白寝着の襟元を正そうとすれば、その手首を宗茂が掴む。
「やる」
「お前も初夜の夫としてはもう少し言い方があるだろう?」
「空気は――」
「もう分かった。手を離せ」
誾千代が言えば、宗茂は素直に手を離した。
すると誾千代は上半身を起こすと、自ら白寝着を脱ぎ捨てて、宗茂にその肌をさらす。
思わず宗茂は喉を鳴らすが、
「やるのだろう?」
「お前は男というものが分かっていない。脱がせるのも楽しみのひとつだ」
「なぜ私がお前を喜ばせないといけない」
再び褥に横たわると誾千代は、そう言う。
そんな新妻の上に宗茂はのしかかると、改めてそこで見つめあう。
灯明皿の灰明るい灯りの下、ふたりの視線が交差する。互いに瞳を覗き合う。
それから、宗茂はそっと誾千代の唇に自分のそれを重ねる。
この夜から――。
幼馴染から夫婦へ――。ふたりの関係が変わる。
そして、新たな戦いが始まる。
妻の心を欲する男と、それを曝け出すことを拒否する女との戦い。
白寝着に着替えて、廊からその部屋に入ると、同じく白寝着を身につけた誾千代が褥の端に座って、部屋に入ってきた宗茂を一瞥する。
けれど、全身から溢れて出ている気迫は、木刀を合わせる時と同じもの。
まぁ、それが誾千代らしい、とも宗茂は思う。
しばらく誾千代を見ていたが、それが疎ましいとばかりに新妻は睨み返してきた。
宗茂が褥に近づけば、躊躇うことなく誾千代は宗茂の手を借りずに身を横たえた。
その瞬間、触れたらピリッと雷でも落としそうだった気迫が消えた。
思わず宗茂は驚いた。
文句を言って抵抗されるだろうと想像していたが――。
(覚悟は出来ている、ということか?それとも・・・)
宗茂の傍らで仰向けになった誾千代は、宗茂と目を合わせることなく、視線を天井に張り付けたまま。
それは初夜を迎える女の風情ではない。
「誾千代」
声をかけるが、返事はない。仕方がない。
仕掛けるか・・・。
宗茂は、そこで誾千代の帯を解き、前を開く。誾千代はおとなしくされるがまま。
するとそこには灰明るい灯りの下に薄桃色の肌が見え、宗茂は体の奥から痺れが走り、欲情が怒涛のごとく押し寄せてくるのが分かったが、ふと誾千代を見れば、その視線は天井に張り付いたまま。宗茂を見ようとはしてこない。
一瞬にして引き潮のように、湧き上がっていた熱情が引いていく。
自分を裸体へと導こうとしていた宗茂の手が止まったことに誾千代は気付いた。
天井ばかり見ていた視線を宗茂へと向ければ、目が合った。
普段へらへらと軽口ばかりきく口元がきつく結ばれ、目が珍しく沈んでいる。
初夜に見せる男の顔ではないな、とふと心の中だけで笑う。
笑って嬉しくなる。
こんな顔が見てみたかったのだ。
宗茂が自分に気があることは気付いていた。
そして、それを内心嘲笑っていた。
――馬鹿な男だ。
自分は既に立花家の家督を継いだ身。宗茂は高橋家の跡取り。
いつかは自分とて婿を取る。それが誰であれ立花の次世代を得る為、仕方のないこと。そう覚悟していた。宗茂も、身分相応の娘を迎えるだろう。
ふたりの人生は平行線を辿り、交わることは決してないのだから、愛だ恋だそんな感情を持って何になる。
そう嘲笑って、けれど、どこか嬉しいような。
嬉しいと感じるのはきっと、宗茂に勝てたような気がしたから。ただそれだけ。
いや、自分も宗茂に好意がないわけではない。
けれど、それが愛だ恋だというものなのかは分からない。分からないままでいい。
子供の頃は、体格も武勇の腕も大差なかった。
剣を合わせれば、勝つことも負けることも同じぐらいあった。
なのに・・・。
思い出しても悔しさが沸き立つ。
自分が女としてのしるしを見て、宗茂の声が低くなった頃から、勝てなくなった。
これが男と女の差なのか、誾千代は愕然としたことを覚えている。
そして、嫉妬した。自分がどんなにもがき苦しんでも手に入れることが出来ないものを、生まれ持っていた宗茂に嫉妬した。
男として生まれただけで、宗茂は自分が手に入れられぬものを持っている。
世の中に多くの男がいるのに、宗茂にだけ嫉妬した。
どうしようもないくだらない嫉妬だと分かっているけれど、立花家の跡取りとなるべく男子のように育てられ、なのに、今度は女となり、宗茂の妻になれという。
手を止めた宗茂に、
「やらないのか?」
誾千代が問う。すると、宗茂の唇を苦笑が縁取る。
「初夜の新妻の物言いではな――」
言いかけて宗茂は、苦笑を笑いへと変える。
「お前は空気を読まない主義――だったな」
「それはお互いさまではないか?」
やらないのなら、中途半端に脱がされた白寝着の襟元を正そうとすれば、その手首を宗茂が掴む。
「やる」
「お前も初夜の夫としてはもう少し言い方があるだろう?」
「空気は――」
「もう分かった。手を離せ」
誾千代が言えば、宗茂は素直に手を離した。
すると誾千代は上半身を起こすと、自ら白寝着を脱ぎ捨てて、宗茂にその肌をさらす。
思わず宗茂は喉を鳴らすが、
「やるのだろう?」
「お前は男というものが分かっていない。脱がせるのも楽しみのひとつだ」
「なぜ私がお前を喜ばせないといけない」
再び褥に横たわると誾千代は、そう言う。
そんな新妻の上に宗茂はのしかかると、改めてそこで見つめあう。
灯明皿の灰明るい灯りの下、ふたりの視線が交差する。互いに瞳を覗き合う。
それから、宗茂はそっと誾千代の唇に自分のそれを重ねる。
この夜から――。
幼馴染から夫婦へ――。ふたりの関係が変わる。
そして、新たな戦いが始まる。
妻の心を欲する男と、それを曝け出すことを拒否する女との戦い。
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