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通りの隅で、宗茂は、少女をひとり拾った。
暑い日だった。
五月雨の雲が少し隠れた日。それを待ちかねた太陽が、嬉しげに、じりじりと午後の時間を灼いている。
宗茂は、視線を感じ、通り過ぎた景色を振り返った。
けれど、誰もいない。
気のせいだったのかと向き直れば、また視線を感じる。
振り向けば、また誰もいない。そんなことを二度、三度繰り返して、
「宗茂さま?」
と供の者に呼ばれる。が、宗茂は気付かない。また、
「宗茂さま、どうなさいました?」
と声をかけられ、ハッとする。元服したばかり。まだ「宗茂」という名前に慣れていない。そんな宗茂の様子に、供の者は苦笑する。
「まだ慣れませんか?」
「そうだな」
そう答えて、促されて再び歩き出した。
すると、また感じる。
どうせまた誰もいないのだろう、と思いつつ振り返れば、そこに彼女がいた。
先程まで誰もいなかった道の隅にうずくまり、ぼんやりと自由な瞳を空に遊ばせている。
宗茂は、供の者が慌てるのも構わず、たっ・・・と走り出す。
少女の前に立てば、彼女は眩しげに宗茂を見上げ、けれども、すぐに面倒そうに俯く。
「俺に何か用か?」
声をかけて、少女だと思ったが服装から少年か、と思い直すが、
「――別に」
俯いたまま答える少女の声に、宗茂は、なんとなく女だと確信する。
「お前、誰だよ?」
「――・・・」
少女が答えるより先に、宗茂を追ってきた供の者が、宗茂を庇うように少女の前に立つ。
少女が、それに眉根を歪ませたのが分かった。
「――弱虫」
「なんだとっ!」
「宗茂さま!」
供の者が前に出ようとした宗茂を抑えるようした瞬間、少女が顔を上げる。
それに思わず、宗茂が怯んだ。
顔を真っ直ぐに上げた彼女は、整った顔立ちをしており、けれど、それにそぐわないほど、肝のすわった、ふてぶてしい――瞳の底に、そんな鈍い光を持っていた。
が、すぐにだるそうに俯いてしまう。
真夏のような肌に重い暑気が、あたりを鬱陶しく満たしている日である。
「――お前、もしかして熱中症?」
「――・・・」
少女は、宗茂の問いかけに答えないが、
「あなたが高橋宗茂」
ぽつり呟きを落とす。その声がひどく掠れていた。顔も赤くなってきている。
これは――・・・。
「水!水を持ってこい」
宗茂が、供の者に言えば、少女を警戒している供の者はしぶったが、宗茂が背を押せば、しぶしぶと走り出す。
宗茂は、少女の前にしゃがみ込む。
「お前、誰だよ?着てる物もいいし、どこの誰だ?」
「――・・・」
答える気がないのか、答える気力がないのか。
ひどい汗をかき、だるそうな姿に、まぁ、誰でもいいや、と宗茂はそんな気にさせられた。
「大丈夫かよ?」
そう宗茂が声をかけたとき、供の者が戻ってきた。
持ってきた竹の筒に入った水を飲ませれば、ぐっとつまったように咳込み、慌ててその背をさすれば、痙攣するように体が震えているのが分かった。
体調が悪い時に、母にされるように額に手を伸ばせば、熱はなさそうなのに、ひどい汗をかいている。
宗茂は慌てた。
このまま死んでしまうのではないかと思った。
だから、抱き上げた。
が、くらっと体が揺れて、それを見かねたかのように供の者が、少女を宗茂の手から取り、抱きかかえる。
それに宗茂の自尊心は、すこし傷つけられた。
鍛えているつもりだけど、こんな軽そうな少女すら抱きかかえられないのか、と悔しくなるが、今はそれどころではない。
「とりあえず、屋敷に連れて行く!」
宗茂は、悔しさを押し隠して、供の者に主らしく指示をしてみせる。
【戻る】【次】
暑い日だった。
五月雨の雲が少し隠れた日。それを待ちかねた太陽が、嬉しげに、じりじりと午後の時間を灼いている。
宗茂は、視線を感じ、通り過ぎた景色を振り返った。
けれど、誰もいない。
気のせいだったのかと向き直れば、また視線を感じる。
振り向けば、また誰もいない。そんなことを二度、三度繰り返して、
「宗茂さま?」
と供の者に呼ばれる。が、宗茂は気付かない。また、
「宗茂さま、どうなさいました?」
と声をかけられ、ハッとする。元服したばかり。まだ「宗茂」という名前に慣れていない。そんな宗茂の様子に、供の者は苦笑する。
「まだ慣れませんか?」
「そうだな」
そう答えて、促されて再び歩き出した。
すると、また感じる。
どうせまた誰もいないのだろう、と思いつつ振り返れば、そこに彼女がいた。
先程まで誰もいなかった道の隅にうずくまり、ぼんやりと自由な瞳を空に遊ばせている。
宗茂は、供の者が慌てるのも構わず、たっ・・・と走り出す。
少女の前に立てば、彼女は眩しげに宗茂を見上げ、けれども、すぐに面倒そうに俯く。
「俺に何か用か?」
声をかけて、少女だと思ったが服装から少年か、と思い直すが、
「――別に」
俯いたまま答える少女の声に、宗茂は、なんとなく女だと確信する。
「お前、誰だよ?」
「――・・・」
少女が答えるより先に、宗茂を追ってきた供の者が、宗茂を庇うように少女の前に立つ。
少女が、それに眉根を歪ませたのが分かった。
「――弱虫」
「なんだとっ!」
「宗茂さま!」
供の者が前に出ようとした宗茂を抑えるようした瞬間、少女が顔を上げる。
それに思わず、宗茂が怯んだ。
顔を真っ直ぐに上げた彼女は、整った顔立ちをしており、けれど、それにそぐわないほど、肝のすわった、ふてぶてしい――瞳の底に、そんな鈍い光を持っていた。
が、すぐにだるそうに俯いてしまう。
真夏のような肌に重い暑気が、あたりを鬱陶しく満たしている日である。
「――お前、もしかして熱中症?」
「――・・・」
少女は、宗茂の問いかけに答えないが、
「あなたが高橋宗茂」
ぽつり呟きを落とす。その声がひどく掠れていた。顔も赤くなってきている。
これは――・・・。
「水!水を持ってこい」
宗茂が、供の者に言えば、少女を警戒している供の者はしぶったが、宗茂が背を押せば、しぶしぶと走り出す。
宗茂は、少女の前にしゃがみ込む。
「お前、誰だよ?着てる物もいいし、どこの誰だ?」
「――・・・」
答える気がないのか、答える気力がないのか。
ひどい汗をかき、だるそうな姿に、まぁ、誰でもいいや、と宗茂はそんな気にさせられた。
「大丈夫かよ?」
そう宗茂が声をかけたとき、供の者が戻ってきた。
持ってきた竹の筒に入った水を飲ませれば、ぐっとつまったように咳込み、慌ててその背をさすれば、痙攣するように体が震えているのが分かった。
体調が悪い時に、母にされるように額に手を伸ばせば、熱はなさそうなのに、ひどい汗をかいている。
宗茂は慌てた。
このまま死んでしまうのではないかと思った。
だから、抱き上げた。
が、くらっと体が揺れて、それを見かねたかのように供の者が、少女を宗茂の手から取り、抱きかかえる。
それに宗茂の自尊心は、すこし傷つけられた。
鍛えているつもりだけど、こんな軽そうな少女すら抱きかかえられないのか、と悔しくなるが、今はそれどころではない。
「とりあえず、屋敷に連れて行く!」
宗茂は、悔しさを押し隠して、供の者に主らしく指示をしてみせる。
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