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同じだ。
視線を感じ、そちらを見れば、そこにいるのは、ツンと顔を反らす誾千代。
だから、宗茂も顔を反らしてみれば。
まただ。
じろりと誾千代を見れば、誾千代は顔を反らして、真っ直ぐに背を伸ばして座っている。
初めて道で会った時と同じだ、と宗茂は思う。
きっとあの時も、道でじろじろと自分を観察し、気付かれそうになったら隠れる。それを繰り返していたのだろう。が、そんなことを繰り返しているうちに、じりじりと地を灼く陽射しに倒れた。それを自分が拾った――宗茂は、今度は顔を反らさずに誾千代を見る。
誾千代を迎えに来た男――由布惟信が、紹運とその妻に丁寧な礼を述べているのを、同席して聞きながら、宗茂も誾千代も互いを伺っている。
が、紹運も由布も、それに気付き、視線を合わせる。

「――宗茂」

名を呼ばれ、宗茂は父を見る。

「誾千代殿に何か言うことは?」
「――・・・」

少し考えて、宗茂は再度誾千代を見据える。
相変わらず、肝のすわった、ふてぶてしい――瞳の底に、そんな鈍い光を持つ、人を常に睨みつけているような目が、宗茂を見ている。けれど、

「すまなかった」

と宗茂が言えば、瞬間瞳の強さが鈍る。
昨日、礼を言うことも出来ない餓鬼か、と誾千代を詰ったものの、自分も腹がたったからと思っていても口にしてはいけないであろうこと――形ばかりの家督――を口走った。
つまり、互いに餓鬼だということに気付き、せめて、元服し「大人」の仲間入りした者として、折れてやるつもりで、宗茂は謝った。

「売り言葉に買い言葉で昨日は――」
「あっ、あぁ・・・」

家督を継いでいることを形ばかりだと言われたことだと分かった誾千代は、ふっ・・・と笑いを浮かべた。
それはひどく大人びた笑みだったが、次の瞬間には、それも歪んで消えていく。

「・・・本当のことだから」

ぽつり、誾千代は呟いた。

「形ばかり継いだ家督を、今度は婿になる男に譲らないといけない」
「誾千代さま・・・」

痛ましげに、由布が誾千代のその小さな肩に触れる。
が、視線は宗茂に向けられる。宗茂を非難したいが、それも立場上出来ないのを歯痒く感じているのが分かる。

「誾千代さまは、形ばかりなどではありません。殿の跡継ぎとして日々厳しく育てられ」
「なぐさめは、いらない」

皮肉な調子で、誾千代は由布の言葉を遮る。

「だけど、簡単には譲らない。譲ってなんかやらないんだから。立花は譲らない」

声音に激しいものはなかった。
だからこそ、誾千代の決意の固さが見えて、宗茂は言葉がない。
すっと立ち上がった誾千代は、由布に「帰る!」と言い、宗茂を無視して紹運とその妻には、丁寧に礼を述べ、くるりと踵を返すが、数歩歩いてくるりと勢いよく振り返る。
振り返った勢いのまま、じろりと睨みつけられて、宗茂は、

(これで、もう俺を婿にという話はないな)

と、瞬きをひとつすれば、唇を噛み締めていた誾千代が、ややあって、視線を下げたかと思うと、

「昨日は・・・、助けてくれて有難う」

地に聞かせようとでもいうぐらい俯いて、小さな声で言う。
驚いて誾千代を見上げれば、唇をツンと尖らせて、赤い顔をしている。
それを思わず、「可愛い」とにやりと宗茂は笑う。
ちらちらと宗茂の様子を伺っていた誾千代は、その笑いを不快なものとして受け取ったらしく、ぷいっと赤く染まった顔を反らして、そのまま、走るように部屋を後にする。
慌てて誾千代を追いかけようとしつつ、由布は宗茂を一瞬真っ直ぐに見つめる。
それから、視線を紹運に移し、目配せするように二人は頷きあう。
ふたりが下がった後、紹運は大きな溜息をひとつ落とす。
そして、

「決まったな」

感慨深げに呟く。


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