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ざぁと雨の音がする。
庭の木々を煽る風が雨を横に流し、屋根や雨戸を叩きつける。
その音に混ざって雷が、激しく鳴り響く。
雷雨は時に激しくなったかと思えば、時に大人しくなり、強くなり、弱くなり。それを繰り返す。
「立花の雷神よ、天地を蹂躙せよとは言ったが」
宗茂が言う。
「それは戦場だけにしてくれないか?」
だらしなく寝そべる宗茂を、背筋を真っ直ぐに伸ばして正座する誾千代は、静かに一瞥する。
誾千代は、無言のまま持ち込まれた訴訟の書状に目を通している。
「しかし、まぁよく降るものだ。立花の雷神よ、どうにか出来ないのか?」
「私は呪い師ではない」
この数日、天候が荒れている。
普段、なんだかんだと適当に理由を見つけて、外に出て行く宗茂は城で大人しくしていることを強いられ、それがとても歯痒くてつまらない。しばらく、書状を読む妻を意味もなく見つめていたが、誾千代はそれをわずらわしげに眉をひそめ、退けてしまう。
つまらん、と呟いて、ごろりと寝返りをうてば、
「こう雨が続くと作物が心配になるな。民の生活にも影響が出る」
誾千代が言う。それに宗茂も半身を起こす。
「雨がやんだら、領地内の視察をさせる。俺も行く」
「そうだな」
「お前もどうだ?お前とてこの雨で退屈しているんじゃないのか?」
「――お前と一緒にするな」
「領民は、お前の姿を見ると喜ぶから、お前も一緒に」
「遠乗りがてら自分が行きたい理由に、私をこじつけるな」
言い訳じみた宗茂に、誾千代はふっと笑う。
それと同時に誾千代の髪が、ふわり揺れて顔を覆うが、誾千代が髪をかきあげる。
誾千代の髪は短い。子供の頃は長かった。癖がある髪を、ついついからかったことがある。子供の宗茂としては本当に軽い気持ちで言っただけだったが、次に会った時には短く切られてしまっていた。
それからずっと短いまま。
ぼんやりと子供の頃の後悔を思い出していると、誾千代は真っ直ぐに見てくる。
急に黙り込んだ宗茂を、不審に思ったらしい。
真っ直ぐに向けられた今の誾千代の顔と、子供の頃の髪の長かった頃の誾千代の顔が重なる。
髪を伸ばさないのか、と言いかけて宗茂は、止める。返答は分かりきっていることだ。
しかし。
子供の頃から見ているせいで、感覚が麻痺しているのか、ただ単に考えたことがなかっただけなのか。
多分、誾千代は美人だな、と宗茂は自分の妻を見る。
そう思えば、知らない女にも見えてくる。不思議だなと思っていると、
「うるさい。お前の視線がうるさい」
「なんだ、それ」
誾千代は、硬く顔を表情を閉ざし、唇も閉ざす。
宗茂も、ごろりと再び寝転がり、誾千代を見上げる。子供の頃から見慣れた顔。だけど、知らない女にも見えて、まだ知らない誾千代がいるのかもしれない。
部屋に響くのは雷雨の音。
つまらん、と思っていたが、こうして誾千代をゆっくりと見て過ごす、
「こんな時間も、そう悪くないな」
満足気に宗茂は、呟く。
庭の木々を煽る風が雨を横に流し、屋根や雨戸を叩きつける。
その音に混ざって雷が、激しく鳴り響く。
雷雨は時に激しくなったかと思えば、時に大人しくなり、強くなり、弱くなり。それを繰り返す。
「立花の雷神よ、天地を蹂躙せよとは言ったが」
宗茂が言う。
「それは戦場だけにしてくれないか?」
だらしなく寝そべる宗茂を、背筋を真っ直ぐに伸ばして正座する誾千代は、静かに一瞥する。
誾千代は、無言のまま持ち込まれた訴訟の書状に目を通している。
「しかし、まぁよく降るものだ。立花の雷神よ、どうにか出来ないのか?」
「私は呪い師ではない」
この数日、天候が荒れている。
普段、なんだかんだと適当に理由を見つけて、外に出て行く宗茂は城で大人しくしていることを強いられ、それがとても歯痒くてつまらない。しばらく、書状を読む妻を意味もなく見つめていたが、誾千代はそれをわずらわしげに眉をひそめ、退けてしまう。
つまらん、と呟いて、ごろりと寝返りをうてば、
「こう雨が続くと作物が心配になるな。民の生活にも影響が出る」
誾千代が言う。それに宗茂も半身を起こす。
「雨がやんだら、領地内の視察をさせる。俺も行く」
「そうだな」
「お前もどうだ?お前とてこの雨で退屈しているんじゃないのか?」
「――お前と一緒にするな」
「領民は、お前の姿を見ると喜ぶから、お前も一緒に」
「遠乗りがてら自分が行きたい理由に、私をこじつけるな」
言い訳じみた宗茂に、誾千代はふっと笑う。
それと同時に誾千代の髪が、ふわり揺れて顔を覆うが、誾千代が髪をかきあげる。
誾千代の髪は短い。子供の頃は長かった。癖がある髪を、ついついからかったことがある。子供の宗茂としては本当に軽い気持ちで言っただけだったが、次に会った時には短く切られてしまっていた。
それからずっと短いまま。
ぼんやりと子供の頃の後悔を思い出していると、誾千代は真っ直ぐに見てくる。
急に黙り込んだ宗茂を、不審に思ったらしい。
真っ直ぐに向けられた今の誾千代の顔と、子供の頃の髪の長かった頃の誾千代の顔が重なる。
髪を伸ばさないのか、と言いかけて宗茂は、止める。返答は分かりきっていることだ。
しかし。
子供の頃から見ているせいで、感覚が麻痺しているのか、ただ単に考えたことがなかっただけなのか。
多分、誾千代は美人だな、と宗茂は自分の妻を見る。
そう思えば、知らない女にも見えてくる。不思議だなと思っていると、
「うるさい。お前の視線がうるさい」
「なんだ、それ」
誾千代は、硬く顔を表情を閉ざし、唇も閉ざす。
宗茂も、ごろりと再び寝転がり、誾千代を見上げる。子供の頃から見慣れた顔。だけど、知らない女にも見えて、まだ知らない誾千代がいるのかもしれない。
部屋に響くのは雷雨の音。
つまらん、と思っていたが、こうして誾千代をゆっくりと見て過ごす、
「こんな時間も、そう悪くないな」
満足気に宗茂は、呟く。
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