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――婿に、と俺を望んだのは立花だろう。
	と宗茂は思う。
	立花家に婿入りして数ヶ月。けれど、妻となった幼馴染でもある誾千代の態度は素っ気無い。
	愛想のある女ではないし、人に媚びることもしない。
	それが誾千代だと分かっているが、夫婦となったからにはもう少し歩み寄るべきものではないだろうか、とも宗茂は思う。
	なので、自分から歩み寄ってみれば、誾千代は眉を潜めて、するりと交わしてしまう。
	それがあまりに結婚前よりも無愛想で、宗茂を混乱させる。
	その誾千代は、ぴんと背筋を伸ばして、手習いを続けている。
	さらさらと誾千代が動かす手を眺めながら、
「まぁ、別にいいけどさ・・・」
	つい、呟きが落ちた。
	宗茂は、慌てて口許を拭ったが、誾千代の耳には届いていなかったのか、手習いを続けている。
「楽しいか?」
	聞いてみれば、誾千代は一瞥をくれただけ。
	宗茂は、ここで誾千代を見ていても仕方ないと思い直し、立ち上がり縁に出ると。
	
	「あっ、猫」
	猫が一匹、ちりりと鈴を鳴らして庭に舞い込んでいた。
	立花で猫を飼っているとは聞いていないが、鈴をしているので、誰かの飼い猫かと誾千代に聞こうと
	振り返れば、誾千代がふわりと微笑を浮かべて猫を見ていた。
	けれど、それも宗茂の視線に気付いてすぐに、はらりと消え、何事もなかったかのような顔に戻る。
	それを見て、あぁ、そういえば猫好きだったな、と宗茂は思い出す。
	子供の頃、共に子猫を拾ったことがある。
	まだ素直な子供だった誾千代は、とても可愛がっていたが、立花家では飼えないらしく、宗茂が引き取った。
	宗茂が猫に手を差し出せば、人慣れしているのか、ちりり鈴を鳴らして近づいてくるので、そっと抱き上げる。
	そして、猫を抱いて誾千代に差し出せば、誾千代は宗茂を見上げる。
	
	「猫、好きだっただろう?」
	「――離してやれ」
	「抱かないのか?」
	言われた通りに離してみれば、猫は鈴を鳴らしてぶるんと大きく首を振る。
	それから、じっと誾千代を見上げている。
	誾千代も猫を見るが、手は差し出さない。猫がゆっくりと誾千代に近づけば、誾千代はちらりと宗茂を見る。
	
	――あぁ、俺がいると素直に触れないのか。
	
	くっ、と笑いそうになるのを堪えて、宗茂は猫に関心など失った振りをして、部屋を出て行く。
好きなものには素直になれない。
「難儀な性格だな」
と思ってから、ふっと思う。
	
	――結婚前より無愛想になったと思えたのは、もしかして・・・。
	
	「・・・、本当に難儀な性格だな」
	くくくっ、と笑ってから、結婚したのがそれに気付ける俺で良かったな、と部屋を振り返る。
	部屋からはちりりと猫の鈴の音。
	
	 
 
	