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北方軍は無事南下し、鉢形城攻略時。
前田・上杉連合軍に、徳川軍が加わることとなったが、その中に本多忠勝の姿はあっても稲はなかった。
――ヒュンッ。
忠勝の耳もとを風がかすめた。
何事かと思っていると、何かが当たって倒れたような鈍い音がした。
ハッと身を固くした忠勝だったが、それが人間が倒れた音だと気付いた。
あとほんの少し忠勝の動きが緩慢だったなら、その矢は忠勝に当たっていたかもしれないような距離だった。
矢を射たのは信幸。
無表情で、じっとこちらを見据えたままでいる。
倒れた男があげた濃いうめき声を土に染みるように響いた。
どくどくと血が流れている。
心臓を一突きにされたらしい男は、北条の兵だと忠勝にはすぐに分かった。
どうやら狙われていたらしい。
それに気付いた信幸が、男を矢で射た。
見事な腕だ、と思っていると忠勝の脇を風のように信幸が馬で駆けると、男の前で下馬すると、しゃがみこんだ。生死を確認しているらしい。
「少しは使えるようになったか」
ぽつり言ったのは昌幸。
生死を確認して戻ってきた信幸は、物見のようです、と言う。
鉢形城は、連合軍が包囲しかけている途中である。
「物見か・・・」
「抜け出して小田原に向かおうとしている部隊があるのかもしれないな」
城内はどうなっているのだろうか、と忠勝が言えば、昌幸は息子を見る。
父の視線を受けて、
「見てきます」
と、何でもないことのように信幸が言うので忠勝は驚く。
驚く忠勝など気にも留めていない素振りで、信幸はわずかな手勢だけを連れて馬で駆けていく。
しばらくして戻ってきた信幸は、
「夜に、500程の兵が北東方向へ抜け出そうとしているようです」
と告げる。
「よく入り込めたな」
忠勝が驚いて言えば、信幸は頬にぎこちない笑みを浮かべると、
「物見に忍びを使っていませんでしたから、忍びがいなければ入る込むのはたやすいものです」
と答えた。
鉢形城を抜け出した北条軍は連合軍に討ち取られしばらくして、鉢形城は開城した。
※
北条軍の士気を下げるかのように秀吉は茶会や酒宴を開く。
今日も酒宴が開かれる予定だという。
細川忠興は、久しぶりの顔を見つけ、思わず声をかけた。
友人の前田利長である。
けれど、利長はひとりではなかった。忠興の知らない男と一緒だった。
誰だ、と訝しげに見れば、その男は忠興の視線を風に散らすように瞬きをすると、利長に何か言うと、行ってしまう。
「父の名代で来た」
利長が言うのに、忠興は去っていく背を見ながら、誰だと問いかければ、真田信幸殿だという返事が返ってきた。
「あれが・・・」
弟に比べて覇気が感じられない、大人しそうな印象の男だと思った。
「苦手か?」
家康に言われ、信幸は苦笑しながら素直に頷く。
小田原の徳川の陣に行けば、秀吉主催の酒宴に行くところだという。
信幸も顔を出せ、と言われ、嫌だと思った気持ちが顔に出ていたらしい。
そんな信幸を家康は笑う。家康が笑い終わるのを待って、
「稲はどこでしょうか?」
尋ねれば、立花誾千代と先に酒宴に行っていると言われた。
あぁ、と信幸は声を出す。稲からの文にいつも綴られている名前だ。
やたら立花誾千代という女武将を慕っている様子なのだ。
「太閤殿下は、忠勝を東の無双、立花宗茂を西の無双を評した」
家康の言葉に信幸は、立花宗茂とその名を呟く。
【戻る】【前】【次】
前田・上杉連合軍に、徳川軍が加わることとなったが、その中に本多忠勝の姿はあっても稲はなかった。
――ヒュンッ。
忠勝の耳もとを風がかすめた。
何事かと思っていると、何かが当たって倒れたような鈍い音がした。
ハッと身を固くした忠勝だったが、それが人間が倒れた音だと気付いた。
あとほんの少し忠勝の動きが緩慢だったなら、その矢は忠勝に当たっていたかもしれないような距離だった。
矢を射たのは信幸。
無表情で、じっとこちらを見据えたままでいる。
倒れた男があげた濃いうめき声を土に染みるように響いた。
どくどくと血が流れている。
心臓を一突きにされたらしい男は、北条の兵だと忠勝にはすぐに分かった。
どうやら狙われていたらしい。
それに気付いた信幸が、男を矢で射た。
見事な腕だ、と思っていると忠勝の脇を風のように信幸が馬で駆けると、男の前で下馬すると、しゃがみこんだ。生死を確認しているらしい。
「少しは使えるようになったか」
ぽつり言ったのは昌幸。
生死を確認して戻ってきた信幸は、物見のようです、と言う。
鉢形城は、連合軍が包囲しかけている途中である。
「物見か・・・」
「抜け出して小田原に向かおうとしている部隊があるのかもしれないな」
城内はどうなっているのだろうか、と忠勝が言えば、昌幸は息子を見る。
父の視線を受けて、
「見てきます」
と、何でもないことのように信幸が言うので忠勝は驚く。
驚く忠勝など気にも留めていない素振りで、信幸はわずかな手勢だけを連れて馬で駆けていく。
しばらくして戻ってきた信幸は、
「夜に、500程の兵が北東方向へ抜け出そうとしているようです」
と告げる。
「よく入り込めたな」
忠勝が驚いて言えば、信幸は頬にぎこちない笑みを浮かべると、
「物見に忍びを使っていませんでしたから、忍びがいなければ入る込むのはたやすいものです」
と答えた。
鉢形城を抜け出した北条軍は連合軍に討ち取られしばらくして、鉢形城は開城した。
※
北条軍の士気を下げるかのように秀吉は茶会や酒宴を開く。
今日も酒宴が開かれる予定だという。
細川忠興は、久しぶりの顔を見つけ、思わず声をかけた。
友人の前田利長である。
けれど、利長はひとりではなかった。忠興の知らない男と一緒だった。
誰だ、と訝しげに見れば、その男は忠興の視線を風に散らすように瞬きをすると、利長に何か言うと、行ってしまう。
「父の名代で来た」
利長が言うのに、忠興は去っていく背を見ながら、誰だと問いかければ、真田信幸殿だという返事が返ってきた。
「あれが・・・」
弟に比べて覇気が感じられない、大人しそうな印象の男だと思った。
「苦手か?」
家康に言われ、信幸は苦笑しながら素直に頷く。
小田原の徳川の陣に行けば、秀吉主催の酒宴に行くところだという。
信幸も顔を出せ、と言われ、嫌だと思った気持ちが顔に出ていたらしい。
そんな信幸を家康は笑う。家康が笑い終わるのを待って、
「稲はどこでしょうか?」
尋ねれば、立花誾千代と先に酒宴に行っていると言われた。
あぁ、と信幸は声を出す。稲からの文にいつも綴られている名前だ。
やたら立花誾千代という女武将を慕っている様子なのだ。
「太閤殿下は、忠勝を東の無双、立花宗茂を西の無双を評した」
家康の言葉に信幸は、立花宗茂とその名を呟く。
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