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宗茂は、誾千代の視線を感じていた。
しばらく誾千代は、黙ってそのままでいたが、やがてひらりと上がった手。
何をするつもりなのかと思っていると、それはそっと宗茂の髪を幾度か梳くように触れ、そっとその頬に当てられた。頬を撫でられ、
「宗茂・・・」
そっと耳元に唇が寄せられ、吐息をかかる。
「――本当は起きているのだろう?」
夫婦として床を共にした夜。
夫婦の寝室は襖を挟んで一応別室となっている。
誾千代は、コトが済むととっとと寝着を羽織ってしまい、そのまま、逃げるように自室へ行ってしまう。
それが宗茂にとっては不満だった。
それが誾千代の照れ隠しだということも重々承知しているが、やることをやるだけが夫婦ではない。
もう少し、こう――多少の男女の淡い戯れもあってもいいのではないか。
そうつねづね思っていたが、ある日気づいた。
抱き合った後、誾千代を抱きしめながら寝てしまえばいいのだと。
鍛えているとはいえ女の誾千代は、宗茂に力では適わない。
だから、逃れさせない為に寝てしまえばいい。
正確には寝た振りをしているのだが、その策はうまくいった。
逃れようともぞもぞと動いたり、宗茂を起こそうとした誾千代だったが、それも無駄だと分かると大人しく腕の中に収まっている。
寝た振りをしたまま、まだ熱の残る誾千代の肌に触れていると宗茂はひどく落ち着き、本当に睡魔が襲ってくる。そして、熟睡できた。
翌朝、目覚めた時のバツの悪そうな誾千代の様子も宗茂には愛らしく感じられた。
けれど、それも何度もやっていれば通用しなくなるというわけか。
「本当は起きているのだろう?」
そう言われた宗茂は、口の端に苦笑を浮かべながら瞼を開く。
「ばれていたか」
「ばか者」
頬を優しく撫でていた手が、今度はその頬を抓る。
それをククッを笑いを洩らすと、誾千代が睨んでくる。
「離してくれ」
「なぜ?」
「なぜって・・・、部屋に戻りたい」
「ここで寝ればいい」
「嫌だ」
――それに、寝着を着たいのだ。
ぷいっと顔を背けて言う誾千代に宗茂は、頬ににやりと笑みを浮かべる。
なら、と小さく言うと左手に力を込めて誾千代を強く抱きしめると、右手を伸ばして、先刻脱がせた誾千代の寝着に手を伸ばす。
「着せてやろう」
「結構だ!!!」
なんとしても宗茂の腕の中から逃れようとする誾千代を押さえつけて、
「ならば、着なければいいようにしてやろう」
そう言うと、その首筋に唇を寄せながら、両腕でしっかりと誾千代の腰を巻きしめる。
「む、宗茂!やめろ!!!」
宗茂は答えない。
宗茂の右腕が誾千代の腰から離れ、微妙に暗闇の中でうごき始めると、誾千代が低く呻いた。
その声を聞いて、宗茂は満足する。
再び抱き合って、ぐったりとする誾千代の汗ばんだ体を撫でながら、宗茂はしっかりと誾千代を抱きなおす。
「宗茂?」
普段からは考えられないたよりない声の妻の唇をついばむ。
「もうここで寝ろ」
そう言うと、誾千代は一瞬唇を開きかけたが、それをやめ、瞼を閉じる。
そして、珍しく宗茂にぴったりと寄り添い、頬を寄せてくるではないか。
その様子に宗茂は、ついに手に入れたぬくもりに満足して、眠りにおちていく。