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新しく召抱えた家臣が、出身地の名産品だといって酒を宗茂に持ってきた。
ご夫婦で飲んでください、と言うのだ。
その家臣は立花家に仕えて時間が短いので、宗茂と誾千代が日常的に言い合っているのが、まるで喧嘩のように見えるらしいと由布が言っていたのを宗茂は思い出す。
子供の頃からの付き合いのふたりを見てきた家臣たちにとっては日常的なものでも、知らぬ者から見れば不仲だったり、喧嘩に見えるのかと宗茂は心の内で苦笑する。
受け取った酒を見ながら、宗茂は考える。
誾千代は酒を好まない。ほんのわずかな酒の味にも気付くぐらいの酒嫌いなのだ。
「気持ちだから飲んでやれ」
宗茂が杯をすすめる。
誾千代は、躊躇したように眉をひそめるが、
「せっかく持ってきてくれたんだ。飲まないと悪いだろう?」
「――」
「ほんの少しだけ飲んで、それで礼を言えばいい」
家臣思いの誾千代は、そう言われ杯をしぶしぶそうながら受け取る。
まずはひとくち。
誾千代の唇が吸い上げたそれは家臣が持ってきた濃い酒を薄く水で割り、甘い味がつけ、飲みやすくしてある。
「――・・・」
誾千代は無言だが、その顔にはその飲み物が気に入ったと書かれている。
宗茂も同じものを飲むが、甘すぎると感じた。
けれど、誾千代は気に入ったようなので、杯に注いでやると黙ったまま、口に含む。
「気に入ったようだな」
といえば、ぷいっと顔を反らしてしまうので、宗茂は軽く笑う。
やがて、誾千代の瞼が酔った。
誾千代がそれと気付かぬうちに、身体中に酒の酔いが回ったようだ。
宗茂が、平気かと肩に触れれば、いつもは瞬間手をはたかれるのに、今日は大人しい。引き寄せれば大人しく肩に抱かれる。
へぇ・・・、と思わず洩れる宗茂の唇の端がにやりと歪む。
酒で体の自由がきかないだけかもしれないが、こんなにも大人しい誾千代は珍しい。
しばらく、酔った誾千代は大人しく宗茂の肩に身を寄せる。
たまにはこんな夜もいいとばかりに妻を肴に酒を飲んでいた宗茂だったが、
「なぁ・・・」
誾千代がぽつり言う。
「起きていたのか?」
宗茂の問いかけには答えないが、とろりと艶やかな瞳で宗茂を上目使いで見つめてくる。それがやけに色っぽい。
「――お前は、私なんかが妻で楽しいのか?」
「はっ?」
「――こんな可愛げのない女、楽しいか?」
酒は本心を語らせるというが、これが誾千代の本心なのかと宗茂は驚く。
「楽しいか楽しくないか問われれば、まぁ、楽しい」
「そうか・・・」
納得いく返事ではなかったようだが、誾千代は頷く。
そっと宗茂から離れようとしたが、思いのほか酔っているのかふらりとまたその肩に戻ってきてしまう。
「私の――」
「ん?」
「私の夫がつとまるのはお前ぐらいしかいないだろうな・・・」
独り言のようにぽつり誾千代が落としたそれを受け取って、へぇ、と宗茂は口許を揺らしながら、分かっているじゃないか、と言えば誾千代はまた黙る。
黙って再び酒に手を出そうとしたので、さすがにもう飲みすぎだと誾千代が出した腕を抑えて、縺れ合い、いつしか誾千代が宗茂の両腕の中にすっぽりと収まってしまう。
これは――・・・。
いい体勢だとばかりだと宗茂だったが寝息が聞こえてきて苦笑する。
両腕に抱かれたまま誾千代は、眠ってしまったのだ。
しばらくして、侍女が顔を出し、まぁと微笑む。
誾千代は、宗茂の膝に埋もれるように眠っていた。
「酔いつぶれたらしい」
じゃあ、すぐに床の準備を――という侍女が言うので、宗茂は制して、
「いや、これでいい」
膝の上で眠る誾千代を、手放そうとしない。
誾千代の方も、少しも窮屈そうではない顔で、すやすやと眠っている。
そこにあるあたたかさに侍女は、くすりと笑って、静かに音をたてないように下がっていく。
猫のように小さく丸まるように膝の上で眠る妻の髪を撫でる。撫でながら、
「俺の妻がつとまるのもお前ぐらいだろう」
夢の中で、誾千代は宗茂の声を聞いたような気がした。
それでも、酒の眠りは浅かったのか、ん・・・と小さな呻き声がした。
誾千代が目覚めたのが分かった。
すぐには状況が分からなかったらしい誾千代は、すぐには起き上がらずに、ほんの少し体を硬直させたかと思った瞬間、弾かれるように起き上がったが、酔いが残っているのかふらりとしてしまうので、笑いながら宗茂は誾千代の腕を掴む。
困惑を瞳に浮かべながら、周囲を見渡して、酒を飲んでいたことを思い出したらしい。
そんな誾千代は、からかうようににやにやと唇を揺らす宗茂に、眉をひそめた後、キッと睨むので、宗茂は怖いな、と呟いてその腕を離す。
「酔いはさめたか?」
誾千代は答えない。
そんな彼女に、再び杯を差し出せば、首を振って拒否する。
立ち上がって部屋を出て行こうとするので、
「酔っているときは、あんなに素直なのに」
そう言えば、くるりと身を翻し、勢いよく宗茂の胸ぐらを掴みかかる。
「何だとっ?!」
動揺しているらしい誾千代に、宗茂は高慢にすら見える笑みを頬に浮かべる。
それから、自分の胸ぐらを掴む妻のあごをしゃくると、
「覚えていないのか?」
にやにやと誾千代を見るばかり。
覚えていない、と素直にいえない誾千代は、宗茂の視線から目を反らすが、それでも、気になるのかちらりと横目で見てくるので、宗茂はくくくっと笑う。
それがまた癪に障ったのだろう。
怒りは溢れているらしいが、自分が何を言ったのか聞くのは出来ないらしい誾千代は、顔を真っ赤にして、宗茂を睨みつけてくるばかり。
「人を馬鹿にして――」
「別に馬鹿にしたつもりはない。ただ酒を飲むと素直になるのだなと思っただけで」
「黙れ!!」
仲良くお酒を召しておりましたよ、と侍女に聞いて、安堵していた酒を渡した家臣だったが、宿直で見渡りに出て、誾千代の怒る声が聞こえて驚く。
それを先ほどの侍女に言えば、彼女は慌てることもなく、
「喧嘩するほど仲が良いと申しますでしょう?それがあのご夫婦にはいつものこと」
にこりと言われてしまう。
早く慣れるといいですね、慣れたら見ていて楽しいですわよ、という言葉に、溜息しながら、かすかに聞こえてくる誾千代の声に、
「慣れるしかないのか」
ぽつり呟く。
ご夫婦で飲んでください、と言うのだ。
その家臣は立花家に仕えて時間が短いので、宗茂と誾千代が日常的に言い合っているのが、まるで喧嘩のように見えるらしいと由布が言っていたのを宗茂は思い出す。
子供の頃からの付き合いのふたりを見てきた家臣たちにとっては日常的なものでも、知らぬ者から見れば不仲だったり、喧嘩に見えるのかと宗茂は心の内で苦笑する。
受け取った酒を見ながら、宗茂は考える。
誾千代は酒を好まない。ほんのわずかな酒の味にも気付くぐらいの酒嫌いなのだ。
「気持ちだから飲んでやれ」
宗茂が杯をすすめる。
誾千代は、躊躇したように眉をひそめるが、
「せっかく持ってきてくれたんだ。飲まないと悪いだろう?」
「――」
「ほんの少しだけ飲んで、それで礼を言えばいい」
家臣思いの誾千代は、そう言われ杯をしぶしぶそうながら受け取る。
まずはひとくち。
誾千代の唇が吸い上げたそれは家臣が持ってきた濃い酒を薄く水で割り、甘い味がつけ、飲みやすくしてある。
「――・・・」
誾千代は無言だが、その顔にはその飲み物が気に入ったと書かれている。
宗茂も同じものを飲むが、甘すぎると感じた。
けれど、誾千代は気に入ったようなので、杯に注いでやると黙ったまま、口に含む。
「気に入ったようだな」
といえば、ぷいっと顔を反らしてしまうので、宗茂は軽く笑う。
やがて、誾千代の瞼が酔った。
誾千代がそれと気付かぬうちに、身体中に酒の酔いが回ったようだ。
宗茂が、平気かと肩に触れれば、いつもは瞬間手をはたかれるのに、今日は大人しい。引き寄せれば大人しく肩に抱かれる。
へぇ・・・、と思わず洩れる宗茂の唇の端がにやりと歪む。
酒で体の自由がきかないだけかもしれないが、こんなにも大人しい誾千代は珍しい。
しばらく、酔った誾千代は大人しく宗茂の肩に身を寄せる。
たまにはこんな夜もいいとばかりに妻を肴に酒を飲んでいた宗茂だったが、
「なぁ・・・」
誾千代がぽつり言う。
「起きていたのか?」
宗茂の問いかけには答えないが、とろりと艶やかな瞳で宗茂を上目使いで見つめてくる。それがやけに色っぽい。
「――お前は、私なんかが妻で楽しいのか?」
「はっ?」
「――こんな可愛げのない女、楽しいか?」
酒は本心を語らせるというが、これが誾千代の本心なのかと宗茂は驚く。
「楽しいか楽しくないか問われれば、まぁ、楽しい」
「そうか・・・」
納得いく返事ではなかったようだが、誾千代は頷く。
そっと宗茂から離れようとしたが、思いのほか酔っているのかふらりとまたその肩に戻ってきてしまう。
「私の――」
「ん?」
「私の夫がつとまるのはお前ぐらいしかいないだろうな・・・」
独り言のようにぽつり誾千代が落としたそれを受け取って、へぇ、と宗茂は口許を揺らしながら、分かっているじゃないか、と言えば誾千代はまた黙る。
黙って再び酒に手を出そうとしたので、さすがにもう飲みすぎだと誾千代が出した腕を抑えて、縺れ合い、いつしか誾千代が宗茂の両腕の中にすっぽりと収まってしまう。
これは――・・・。
いい体勢だとばかりだと宗茂だったが寝息が聞こえてきて苦笑する。
両腕に抱かれたまま誾千代は、眠ってしまったのだ。
しばらくして、侍女が顔を出し、まぁと微笑む。
誾千代は、宗茂の膝に埋もれるように眠っていた。
「酔いつぶれたらしい」
じゃあ、すぐに床の準備を――という侍女が言うので、宗茂は制して、
「いや、これでいい」
膝の上で眠る誾千代を、手放そうとしない。
誾千代の方も、少しも窮屈そうではない顔で、すやすやと眠っている。
そこにあるあたたかさに侍女は、くすりと笑って、静かに音をたてないように下がっていく。
猫のように小さく丸まるように膝の上で眠る妻の髪を撫でる。撫でながら、
「俺の妻がつとまるのもお前ぐらいだろう」
夢の中で、誾千代は宗茂の声を聞いたような気がした。
それでも、酒の眠りは浅かったのか、ん・・・と小さな呻き声がした。
誾千代が目覚めたのが分かった。
すぐには状況が分からなかったらしい誾千代は、すぐには起き上がらずに、ほんの少し体を硬直させたかと思った瞬間、弾かれるように起き上がったが、酔いが残っているのかふらりとしてしまうので、笑いながら宗茂は誾千代の腕を掴む。
困惑を瞳に浮かべながら、周囲を見渡して、酒を飲んでいたことを思い出したらしい。
そんな誾千代は、からかうようににやにやと唇を揺らす宗茂に、眉をひそめた後、キッと睨むので、宗茂は怖いな、と呟いてその腕を離す。
「酔いはさめたか?」
誾千代は答えない。
そんな彼女に、再び杯を差し出せば、首を振って拒否する。
立ち上がって部屋を出て行こうとするので、
「酔っているときは、あんなに素直なのに」
そう言えば、くるりと身を翻し、勢いよく宗茂の胸ぐらを掴みかかる。
「何だとっ?!」
動揺しているらしい誾千代に、宗茂は高慢にすら見える笑みを頬に浮かべる。
それから、自分の胸ぐらを掴む妻のあごをしゃくると、
「覚えていないのか?」
にやにやと誾千代を見るばかり。
覚えていない、と素直にいえない誾千代は、宗茂の視線から目を反らすが、それでも、気になるのかちらりと横目で見てくるので、宗茂はくくくっと笑う。
それがまた癪に障ったのだろう。
怒りは溢れているらしいが、自分が何を言ったのか聞くのは出来ないらしい誾千代は、顔を真っ赤にして、宗茂を睨みつけてくるばかり。
「人を馬鹿にして――」
「別に馬鹿にしたつもりはない。ただ酒を飲むと素直になるのだなと思っただけで」
「黙れ!!」
仲良くお酒を召しておりましたよ、と侍女に聞いて、安堵していた酒を渡した家臣だったが、宿直で見渡りに出て、誾千代の怒る声が聞こえて驚く。
それを先ほどの侍女に言えば、彼女は慌てることもなく、
「喧嘩するほど仲が良いと申しますでしょう?それがあのご夫婦にはいつものこと」
にこりと言われてしまう。
早く慣れるといいですね、慣れたら見ていて楽しいですわよ、という言葉に、溜息しながら、かすかに聞こえてくる誾千代の声に、
「慣れるしかないのか」
ぽつり呟く。
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