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夢でも見ているのか?
宗茂は、もぞりと布団の中で動いた妻を見下ろす。
よく眠っていて、髪を引っ張ってみても起きない。頬をつついてみても起きない。
木刀を合わせた稽古で、誾千代に腕に怪我をさせてしまった。
すまない、と言えば不可抗力だと誾千代は気にする様子はなかった。
けれど、痛むらしい。
痛いと素直に言えない誾千代は、何でもない風を装っているが、時折顰める眉や声の調子で宗茂には分かった。何より気になったのは痛みで、夜、寝られていないということ。
寝なければ体力は消耗されるだけだ。だから、出入りしている医師に煎じてもらった薬を、こっそりと誾千代の食事に混ぜるように侍女に言ったのだが。
「よく効いているみたいだな」
宗茂の呟きに偶然、ん・・・と誾千代が唸った。
それは別段気にもならなかったが、その後に続いた、唸り声なのか寝言なのか分からないそれに宗茂は、思わず吹きだした。
にゃぁ・・・、と誾千代が言った――ように聞こえた。
そして、もぞもぞと動いて顔も隠してしまったので、そっと布団をめくってみれば猫みたいに体を丸くしていた。
「猫にでもなっている夢みてるのか?」
笑いながら、寝ている誾千代に言うが、当然いつもの憎まれ口はない。
ただ気持ちよさそうに眠っている。
ちょこんと飛び出ている頭を思わずわしゃわしゃと撫で回してみれば、当然だがいつもみたいに手で跳ね返されない。素直にされるがまま。反発してこない誾千代というのも不思議だな、と思いながら、いろいろな方向に流れてぐしゃくしゃになった髪を直してやろうと梳くように撫でつければ、誾千代がまた鳴いたような気がした。
もしかして気持ちがいいのだろうかと再び布団をめくり、誾千代の顔を見ながら何度も何度も撫でてやれば、子供みたいに安心したような顔で、少しだけ笑った。
その寝顔をじろじろと宗茂は、見つめる。
「可愛い顔してるんだな」
改めて思った。
子供の頃から見てきた誾千代。整った顔立ちだということは知っているつもりだったが、あまりに近くにいすぎて、それが当然すぎて普段意識することはなかった。
人をからかうのが楽しい性分だから女にも軽口をたたくが、手を出したいと思うことはない。
触れたいと思うのは誾千代だけで、それは異性を意識するようになった頃にはすでに誾千代が婚約者だったから刷り込みなのか、それとも――。
「訳分からん」
考えても無駄だと思って、布団で再び誾千代の顔を隠す。
すると、息苦しかったのか、んにゃ、と不快な声。
「本当に猫にでもなったのか?」
医者の煎じた薬は幻覚作用でもあったのだろうか。再び布団をめくって誾千代の顔を見る。
「おい、猫千代」
返事はない。ただ気持ち良さそうに眠っているだけ。
寝られるように手配したのは自分なのに、宗茂は反応がないのが面白くない。
「猫千代」
相変わらず丸まってよく眠っている。
それを見ていると宗茂まで眠たくなってきて、
「猫は団子になって寝るもんだろう」
と誰に言うでもなく言うと、もぞもぞと誾千代の床に背後からもぐり込む。
狭いな、と文句を言いながら、丸くなった誾千代を抱き寄せようとすると誾千代の体が弛緩して、くるりと寝返りして宗茂に向き直った。
目の前にぐっすりと眠る誾千代。その頬をつねるが起きない。
「猫千代」
再び呼びかけながら、思いついて、誾千代の頬を舐めてみる。柔らかい。
再び舐めてみる。んにゃ、と誾千代が鳴いた。先ほどとは違って不快そうではない。むしろ嬉しそうで。
だから、再び舐めてみる。
それはまるで親猫が子猫を舐めているように宗茂には思えて、
「――俺も猫かよ・・・」
と苦笑すれば、にゃっと誾千代が再び鳴いた。
【誾千代視点】
宗茂は、もぞりと布団の中で動いた妻を見下ろす。
よく眠っていて、髪を引っ張ってみても起きない。頬をつついてみても起きない。
木刀を合わせた稽古で、誾千代に腕に怪我をさせてしまった。
すまない、と言えば不可抗力だと誾千代は気にする様子はなかった。
けれど、痛むらしい。
痛いと素直に言えない誾千代は、何でもない風を装っているが、時折顰める眉や声の調子で宗茂には分かった。何より気になったのは痛みで、夜、寝られていないということ。
寝なければ体力は消耗されるだけだ。だから、出入りしている医師に煎じてもらった薬を、こっそりと誾千代の食事に混ぜるように侍女に言ったのだが。
「よく効いているみたいだな」
宗茂の呟きに偶然、ん・・・と誾千代が唸った。
それは別段気にもならなかったが、その後に続いた、唸り声なのか寝言なのか分からないそれに宗茂は、思わず吹きだした。
にゃぁ・・・、と誾千代が言った――ように聞こえた。
そして、もぞもぞと動いて顔も隠してしまったので、そっと布団をめくってみれば猫みたいに体を丸くしていた。
「猫にでもなっている夢みてるのか?」
笑いながら、寝ている誾千代に言うが、当然いつもの憎まれ口はない。
ただ気持ちよさそうに眠っている。
ちょこんと飛び出ている頭を思わずわしゃわしゃと撫で回してみれば、当然だがいつもみたいに手で跳ね返されない。素直にされるがまま。反発してこない誾千代というのも不思議だな、と思いながら、いろいろな方向に流れてぐしゃくしゃになった髪を直してやろうと梳くように撫でつければ、誾千代がまた鳴いたような気がした。
もしかして気持ちがいいのだろうかと再び布団をめくり、誾千代の顔を見ながら何度も何度も撫でてやれば、子供みたいに安心したような顔で、少しだけ笑った。
その寝顔をじろじろと宗茂は、見つめる。
「可愛い顔してるんだな」
改めて思った。
子供の頃から見てきた誾千代。整った顔立ちだということは知っているつもりだったが、あまりに近くにいすぎて、それが当然すぎて普段意識することはなかった。
人をからかうのが楽しい性分だから女にも軽口をたたくが、手を出したいと思うことはない。
触れたいと思うのは誾千代だけで、それは異性を意識するようになった頃にはすでに誾千代が婚約者だったから刷り込みなのか、それとも――。
「訳分からん」
考えても無駄だと思って、布団で再び誾千代の顔を隠す。
すると、息苦しかったのか、んにゃ、と不快な声。
「本当に猫にでもなったのか?」
医者の煎じた薬は幻覚作用でもあったのだろうか。再び布団をめくって誾千代の顔を見る。
「おい、猫千代」
返事はない。ただ気持ち良さそうに眠っているだけ。
寝られるように手配したのは自分なのに、宗茂は反応がないのが面白くない。
「猫千代」
相変わらず丸まってよく眠っている。
それを見ていると宗茂まで眠たくなってきて、
「猫は団子になって寝るもんだろう」
と誰に言うでもなく言うと、もぞもぞと誾千代の床に背後からもぐり込む。
狭いな、と文句を言いながら、丸くなった誾千代を抱き寄せようとすると誾千代の体が弛緩して、くるりと寝返りして宗茂に向き直った。
目の前にぐっすりと眠る誾千代。その頬をつねるが起きない。
「猫千代」
再び呼びかけながら、思いついて、誾千代の頬を舐めてみる。柔らかい。
再び舐めてみる。んにゃ、と誾千代が鳴いた。先ほどとは違って不快そうではない。むしろ嬉しそうで。
だから、再び舐めてみる。
それはまるで親猫が子猫を舐めているように宗茂には思えて、
「――俺も猫かよ・・・」
と苦笑すれば、にゃっと誾千代が再び鳴いた。
【誾千代視点】
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