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2024/11
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巨体に似合わず子供好きらしいその男は、腕に子供たちをぶら下げて遊んでやっている。いや、遊んでいるという方が正しそうな楽しげな様子を、縁に座り込んで信幸は眺めていた。

初夏にしては涼しい夕刻。肌寒いくらいの日。
けれど、子供たちは寒さなど感じないのか、頬を真っ赤にして楽しげに遊んでいる。
孫六郎、と声をかけようとした時、小さな足音が近づいてきた。
見れば小さな女。

「幸村さまにも使いを出しましたから。大喜びでいらっしゃいますよ」

にこっと頬に笑みを浮かべる女の名は、うた。
うたは、信幸の母――山手殿の妹で石田三成の妻。
面差しや顔つきは山手殿に似ているが、なにせ小さい。子供のようだ。
子供を産み、母となっているのが信じられない。

「旦那さまはすぐにいらっしゃいます」

信幸の脇にちょこんと座り込む。
伏見の屋敷に信幸が着いた時、屋敷が近いので偶然出かけていたうたに会った。
誘われるがまま、ほぼ強引に石田屋敷に連れてこられた信幸だった。
突然のことだったので、仰々しい歓迎などはなく気楽でもあり、叔母とはいえ、あまり面識がないのに、久しぶりに甥に会えたことを喜んでくれているので、まぁいいかという気持ちにさせられる。
それにどうやら幸村は、頻繁に石田屋敷に来ているようで、離れている弟の様子を身振り手振りをそえて話すうたの声に耳を傾けていた時、縁がきしりと音をたてた。
音のした方を見れば、石田三成の姿。
クッと口許を手で隠しているが笑っているのが分かる。

「何ですか?」

挨拶もなしに信幸が言うが、それを三成が気にしている様子もなく、

「普段はまったく感じなかったが、並べて見ると確かに似ていると思って」
「私と叔母上が・・・ですか?」

信幸は、改めてうたを見る。自分では似ているとは思わないのだが。
それはうたも同じようで、まじまじと信幸の顔を眺めまわした後、小首を傾げる。
その仕草は、年よりも幼く見える。

「幸村とうたはまったく似ていないが、信幸とうたは似ている」
「そうですか」

んー、と唸りながらもうたは立ち上がると、三成の隣に立つ。
決して男として背が低いわけではなく平均的な方だが、武勇にたけた屈強な男達が周囲に多い故に、小さく見られがちな三成だが、うたが隣に立つだけで妙に男らしく見える。
うたは何か三成に言い、それに三成が頷くと、行ってしまう。

孫六郎、と信幸は息子を呼ぶ。三成に挨拶をさせようと思ったのだ。
巨体の男――島左近の腕にぶら下がっていた孫六郎が、その腕から降りるより早く、赤い髪の幼女が「父上」と三成に駆け寄る。
一目で誰の娘か分かるぐらい三成そっくりの娘―辰だ。
遅れて孫六郎が駆けて来た。

「あのね、このコは孫六郎っていってね、辰の従兄弟なんだって。でね――」

三成の娘にしてはお喋りらしい辰は、三成に自分が今日知りえたことを必死に教えている。まくしたてるように喋ると満足したらしいが、遊びたりないらしく孫六郎の手を取って、左近に駆け寄る。
引きずられるながら孫六郎は、慌てたように父を助けを求めるような目をしたが、つきあってやれと信幸が手をひらりと揺らすと頷いた。

「すまない」

三成が言う。

「見た目だけは三成殿にそっくりですが、中身は叔母上ですかね?」
「――だろうな。やかましくて仕方がない」

そんなことを言うが娘を見る目は優しい。こんな顔もするのか、と信幸は思った。
行政手腕にたけるが、無愛想で秀吉であろうと媚びることなく怜悧な男というのが専らの評判だが、今はまったくそう見えない。
改めてその容姿を見た信幸が思ったことは、痩せたな、というもの。
元々華奢ともいえるような身体をしているのがより一層。
痩せた、というよりやつれた。
そもそも近頃は屋敷にも帰ることがないぐらい多忙らしい。
うたが強引に信幸を誘った時、客人があれば帰ってきて少しは屋敷で体を休められるから、とぽろりそんなことを言っていた。

「徳川殿は――」
「えっ?」

わざと聞こえなかった振りを信幸はする。
何か、と問いかけるが、三成も何も言っていない。そんな素振りをする。
話題を変えようと信幸は、

「面倒なので否定しませんでしたが、うちの息子と辰姫は従兄弟ではありませんよ」
「従甥か。説明しても分からないだろう」

陽が伸びたとはいえあたりは夜に染まりかけている。
寒いくらいの風が肌の上を這っていく。
しばらく、子供たちを眺めていたが、門辺りが騒がしくなった。

「幸村だろう」

三成が言ったとおり、しばらくすると幸村は、そんなに慌てる必要もないと言いたくなるような勢いでやって来た。





 ※


あー、目元などが似ているかもしれませんね。

幸村が、信幸とうたを見比べて陽気な声で言う。
いつもよりやたら呑むな、と弟を見ながら信幸は思う。
次々に酒を飲み干していく幸村だったが、

「そういえば、こうして見ていると幸村が兄に見えるな」

三成のその言葉に、手が止まった。

「年子なんてそんなものでしょう。三成殿が、加藤清正殿や福島正則殿より年上に見えないのと同じですよ」

信幸がにこりとして言えば、左近が笑いを洩らすので、三成は彼を睨む。
睨まれて、大きな肩をわざとらしくすくめて見せるので、その様子に信幸も頬を揺らす。

小さな酒宴は、ただ穏やかに時間が流れる。
情勢や政治のことなどは奇妙なまでに一切触れない。
帰り際、眠ってしまった孫六郎を受け取り、信幸が抱いていると。

くのいちは――。

酔った幸村が、次に続ける言葉を思案している間に、

「稲が、いろいろ頼んでいるようだから、まだ戻れないのかもしれないな。悪いな」

と信幸が言ってやる。
普段なら幸村の使いで来てもすぐに帰ってしまうくのいちだったが、今回はいろいろ思うところがあるのか、沼田に留まっていたので稲が、仙千代を預けたり何かした用を頼んでは、くのいちが留まっているのが不自然なものではないように装ってやっている様子なのだ。

「義姉上が・・・?」
「仙千代がくのいちに懐いている様子だから、預けやすいらしい。稲は稲で息抜きしている」
「そうですか」
「知らせずにすまない」
「いえ」

腑に落ちない様子だが、幸村は黙る。
いつまでも戻らない配下に何かあったのかと心配しているのか。
それとも――。

「沼田にいるのであれば、安心しました」

そう言った時、信幸が抱いていた孫六郎が、ん・・・と小さく呻くと、目をこすった。
遊び疲れてぐっすりと眠っていたのだが起きたらしい。

「おっ、起きたか」

孫六郎の頭に手を伸ばして、ぐりぐりっと撫で回す幸村は、酒のせいなのかそうでないのか、いつもよりしつこく孫六郎を撫で回す。んーと眠たげな声をあげながら、小さな手で幸村の手を払おうとしているのが面白のか、幸村は笑う。

「酔っ払いはしつこいな」

信幸がぽつり言えば、幸村は声をあげて笑う。



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