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昌幸の次の子供の髪はどうなるのだろうな?
夜更け。
突然の勝頼様の言葉に眉を潜めれば、ぐいっと髪を一握り掴まれて引っ張られる。
「黒髪になるのか、銀髪になるのか?どちらだろうな?」
妻が今、第二子を妊娠中でそろそろ生まれる。
「妻と娘は黒髪ですから、また黒髪ではないでしょうは?」
げんなりした気分で答える。
すると「それはつまらない」と言われ、またげんなりする。
人の子をつまらないと言い、さらにたった今まで閨を共にしていた相手と話す話だろうか。
引っ張られた髪を、まだ掴みながら勝頼様は指に絡めて、遊んでいる。
「どちらでも構いませんよ」
「…まぁ、そうだが、お前に似た男子なら更に良い」
それは――。
それは我が子を差し出せということですか?
言いかけて止める。
元よりいつかは子を武田家に預けようと考えていたのだから言うまでもない。
いつまでも銀髪を指で遊ぶ勝頼を、昌幸は見つめれば、欲しがって見えたのか、髪を手から離したかと思えばその手を首に回して体ごと引っ張る勢いで口づけをされた。
そして、生まれた男子は銀髪だった。
またすぐに息子が生まれたが、そちらは黒髪だった。
黒髪の息子――弁丸はまさに武家の少年らしい少年だった。
銀髪の嫡男――源三郎は体は同じく武家の息子らしさはあったが、弁丸に比べて知が勝る、冷静さがあった。
源三郎が十になる頃、武田家に小姓として預けた。
信玄公に「オナゴのようだな」と可愛いがられ、また勝頼様にも気に入られていた。
武田家に人質として出す時に、閨のことも教えた。
共に聞いていた弁丸は、兄にしがみつき「ダメ、やだ」などベソをかいたが、源三郎は冷静だった。
既に知っていたようだった。
覚悟があったようだった。
そして、預けてすぐ三郎が勝頼様に呼び出された、と源三郎につけていた家人より聞いた。
弁丸もつれて躑躅ヶ崎館に行けば、庭に武王丸様(勝頼の嫡男)と遊んでいるらしい源三郎と、それを見つめる勝頼様がいた。
勝頼様に呼ばれて、源三郎が近付けば、その髪を勝頼様がかるく指ですくように手遊ぶ。
それはあの夜を思い出ささせて。
息子相手に嫉妬をしている自分に嫌でも気づかされる。
「……」
「兄上!!!」
気付けば弁丸が兄に飛び付くように駆け寄り、驚いた様子の源三郎が慌てたように弟を受けとめた後に、主君に挨拶をするようにたしなめている。
そして、昌幸に気付き
「父上、お久しぶりです」
と挨拶をしてきたかと思えば、すぐに武王丸様と弁丸を連れてまるで逃げるように行ってしまう。
父を避けるかのようだった。
残された勝頼様とふたり。
庭の木々の緑を眺めながら、息子がよくやっている、そんな話を聞かされ、またこちらも感謝し頭を軽く下げれば、勝頼様に髪を前みたいに一握りして引っ張られる。
「やはり源三郎の髪は触り心地が勝頼に似てるな」
「……」
*
夜、久し振りに源三郎、弁丸と夕餉を共にして。
武田家での生活を聞けば。
最初は悠長に武田家での話を聞かせてくれた源三郎だったがそこに武田家からの使い。
源三郎が文を受け取り、それを見てピクリと眉を動かした。
そして、父の視線を、迷惑そうにしりぞけるのだ。
「今夜、お呼びです」
「そうか。励むがいい」
「いや」
源三郎が何か言いかけたが弁丸の、
「あの、その兄上は勝頼様と…その……」
しどろもどろな問いかけに打ち消されてしまう。
「……私は………」
源三郎が受け取った文を父に差し出すと、
「迷惑してます」
ハッキリと言うのだ。
主君に対して何をと息子を叱りつけようとしたが、ジロリ息子に睨まれて文を読むように目で訴えられる。
仕方がなく文を読んだ昌幸が、勢いよく立ち上がると同時に部屋を出ていってしまう、
ポカーンとしてる弁丸に、
「迷惑しているのですよ。勝頼様から父上との…親の…聞きたくもないノロケを聞かされ、会えない寂しさを私の髪を手遊ぶことで解消されるのに本当迷惑をしてる」
ため息を落とす兄に、弁丸はギュッと抱きつくと、
「では今夜は弁丸も寂しかったから、弁丸に触らせてくださいね!」
ひとりで寝かせてくれ、と思う源三郎だったが弁丸の嬉しそうな目に何も言えなくなるのだった。